外伝短編集
日常1-1 くろころ
※このシリーズ『日常』は、第一部第一章終了後を想定した、ストーリーと直接的なかかわりがない、いわゆる外伝的なものです。多少登場人物の時系列的におかしいところがあるかもしれませんが、平行世界線として見てください。
*****
―――ある日の放課後。僕、島野洸太郎と大間さんはくろころに会いにいつもの公園に来ていた。
「そういえば大間さん」
「なに島野くん」
「前に黒猫飼ってたって言ってたよね」
「そうだけど」
「名前は何だったの?」
「クロ」
大間さんは間髪入れずに答えた。
「そのまんまなんだね……」
「私が始めて覚えた言葉がパパママで、次が黒だったんだって。それでそのまま名前にしてあげた方がいいんじゃないかって、親が改名させたらしい」
「改名? 前の名前があったの?」
「うん、それは」
―――にゃおう。
「あ、くろころ。そんなとこ手ついたらだめだよ」
―――にゃおう。
「こらっ、くろころ」
「……」
くろころはベンチに座る大間さんの太ももに両足を乗せ、鎖骨辺りに手を置いて講義するような目をしている。爪は誰かが切っているらしく、怪我の心配はなさそうだったものの、ずり落ちそうな手が止まった場所的に少し目のやり場に困った。
―――にゃおう。
「ふふっ。島野くん、くろころが拗ねてる」
「だね。前の猫の話をされて、構って欲しくなったのかな」
―――にゃ?
「ひっ」
あまりにも、くろころがさも人間のような振り向きを見せたものだから、僕は思わず大間さんから距離を取ってしまった。
「こーら、くろころ。島野くんにそんな態度とっちゃだめでしょ?」
誰にも向けられないような甘い声で叱りながら、大間さんはくろころの背中にそっと手を当てる。
「……」
「……」
僕たちは返事の
「ふふっ、これも落ち込んでるみたい」
「叱られて?」
「うん。多分」
「子どもみたいだね」
―――にゃ?
「ひぃっ」
またこちらを見たくろころの圧掛けに屈し、僕は今度はベンチから立ちあがってまでそこから距離を取った。
「お、大間さん」
助けを求めるように大間さんの顔色を伺ったところ、なぜか大間さんもこちらを睨んでいた。
「え、大間さん?」
「ねー、くろころー。島野くんひどいよねー」
「なんで!?」
―――にゃあ。
「ふふっ」
大間さんはニコニコしながらくろころをゆっくり持ち上げて、隣に置いた。僕がさっきまで座っていたぬくもりが残っていたのか、くろころはまるでホットカーペットの熱を全身で受け止めるように体を伸ばした。
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