第23.8話

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「なあ、泰河今日元気なくね」


「落ち着いてるって言ってくれない?」


「でもなぁ」


 隣の席の泰河は、いつも話している友達の話を聞き流しながらご飯をパクパク食べていた。新学期が始まってすぐは別にそんなことなかったけど、最近はどこか疲れた様子なのが気になる。


「おーい、野球部集合だってよ」


「え、今? めんどくさいなー」


「めんどくさいなって、秋季大会来週末だろ」


 坊主頭が、廊下にいる同じ髪型に呼ばれて、ぐちぐち言いながら外に出て行った。


(よし、チャンス)


「た、泰河」


「ん、どした?」


 何気ない風を装ってこちらを向く彼の目元には、隠しきれないくまがあった。


「いや、ちょっと、心配に、なって……」


 伝えたかった言葉が途切れ途切れになって口の外に出る。


「心配って、なんともないから。ほら、ピンピンしてるだろ?」


 そう腕まくりをする泰河は自分でも驚いた様子で腕をチラ見した。


「……何かあった?」


「何かって、別に何もないよ」


 泰河は言い訳みたいにそっぽを向いてしまった。


「……」


「……あ、あのさ」


 今更きまり悪そうにゆっくりこちらに向きなおって笑いかけてくる彼は、やっぱり根っからのお調子者だ。でも茎も葉も、目に見える所はどこか悲しげで、辛そうで。

 そんな彼に、このタイミングで近づくのは、ある意味卑怯者のような気がして。


「……本当に、何かあったら言ってよ」


 私は一歩逃げた場所から、彼に手を差し伸べるふりをすることにした。

 その時だった。彼の顔が再び強張ったのは。

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