第4.3話

「なあ」


「何」


「藍野さんってどんな人?」


 朝方、廊下での井戸端会議に泰河を呼びつけ、僕は情報収集をすることにした。


「光里か。まあいいやつだと思う」


「……それだけ?」


「それだけって、あとは俺と同じ部活だな」


「……それ以外は?」


「なんだ、あいつのことが好きなのか?」


「そんなことないよ」


「その即答あいつに聞かれたらどうなっても知らないぞ。まあ女子人気が高いな」


「あー、王子様タイプ?」


「お前どこでそんな言葉覚えたんだ……まあ、近いと思う。普通に男子なら付き合いたいって言ってるクラスメイト割といるし。でもあいつはギャルだろ、もしくは陽キャ?」


「泰河みたいな感じ?」


「少なくとも俺はギャルではねーよ」


「それはそうだけど」


「まあ、つるんでるのがな、結構そういう感じの人がいるから」


「危ない!」


 話していると、ちょうど廊下の向こうの方で藍野さんの声が聞こえた。


「あっ、光里ちゃんごめん」


「びっくりするな。まさか掲示板が倒れてくるなんて。気を付けて」


「ありがとう……」


 キュン、という音がどこかから聞こええてきそうな雰囲気が廊下を駆け巡った。


「ま、あんな感じだな」


「ただの怖い人じゃないんだ」


「おい、お前またそういうこと言った」


「な、内緒な」


「何が内緒なのー?」


「ひいっ」


 思わず泰河にしがみついて声の主の方を向くと、幸運にも吉村さんだった。


「おはよう、まどか」


「うん、おはよー。島野くんも」


「お、おはよう」


「はよ放せ」


「ごめん」


 僕は泰河から離れる。


「で、何の話してたの?」


「それが」


「やめて」


 慌てて泰河の口を塞ぐ。


「……」


「よし」


「ほいふはひふひほほほほ」


「やめろくすぐったい」


 はっ、と我に返り、吉村さんの方を向くと、ぽかんとしている様子だった。


「島野くん、泰河くんといるとそんな感じなんだねー」


「え、えーと、まあ、うん」


 言い訳することもないのに口ごもってしまった。


「はよははへ……はぁ、はぁ、はぁ」


 今度は無理やり自力で脱出した泰河が、息を整えている。


「あ、そういえばまどか、先生が探してたぞ。クラス長会議の日程決めしたいんだと」


「わかったー」


 吉村さんはスタスタと来た道を戻っていった。


「吉村さんクラス長なの?」


「そうだけど、意外か?」


「うん、結構」


 あのほんわかした雰囲気でクラスをまとめることができるのだろうか。


「まあ、今後わかると思うから」


 じゃ、と泰河が自分の教室に戻っていくのを見て、僕は既に教室に担任の先生が入っていることに気づいた。

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