第17.2話
「そういえば、お前って中学からの知り合いは皆、名字にさん呼びだよな」
泰河が、僕個人的にはタイムリーな話題を唐突にぶっこんで来た。
「そんなことないと思うけど」
「そうか?」
「だって、一組の石島さんは石島さん呼びだし」
「そっちかよ」
「石島さんって、石島
なぜか大間さんがこちらに身を乗り出す。
(そういえば石島さんもクラスが一緒になったのは今年が初めてだし、去年クラスが一緒だったのかもしれない)
「うん。同じ小学校だけど、転校生だったのもあって絡みがほとんどなくて」
「ふーん。そうなんだ」
大間さんはそれだけ聞いて、元の体勢で焼きそばの続きを食べ始めた。
(何が引っかかったんだろう……)
「結構仲も深まったことだし、ここの三人は別に下の名前呼びしてもいいんじゃないか?」
「えっ」
(さすがに急には無理だって泰河……)
「ん、ゴホッ、ゴホッ……」
隣に座る吉村さん急にむせ始め、その度合いが徐々に激しくなる。
「だ、大丈夫?」
「島野、背中」
「ええっ!?」
藍野さんは僕に、吉村さんの背中を軽く叩くようジェスチャーをする。
(上にパーカーを羽織っているとはいえ相手は水着だし、触ったら後で怒られたり、嫌われたりしないかな……)
吉村さんはさっきよりさらに激しくせき込んでいる。余程変なところに入ったのだろう。背中が小刻みに震え始めるのが目に見えてわかった。
(今はそれどころじゃない!)
「よ、吉村さん、大丈夫?」
僕は吉村さんの丸まった背中を軽く叩いてはさするのを繰り返した。
「……はぁ、はぁ、大丈夫、ゴホッ」
落ち着いてきた様子を見せるものの、まだしんどそうだ。
「大丈夫、大丈夫」
「こーた、これ、お水もらってきたから」
「ありがとう、吉村さん、飲める?」
「うん、ありがとう」
吉村さんは、僕を介さずに直接泰河から水を貰い、少しずつ飲み始めた。
「……はぁ、まさか海に入る前から溺れそうになるなんてね」
「水じゃないでしょ」
「へへ……」
吉村さんはこちらを見上げる。少し目と顔を赤くしているけど、大丈夫だと念で訴えかけてきている気がした。
「こーた君、ありがとう。もう大丈夫」
「よかっ……ああ、ごめん!」
僕は今の今まで、ずっと吉村さんの背中をさすり続けていたことに気づき、すぐに距離を取った。
「ふふっ、また謝った。次謝ったら何してもらおっかなー」
弱弱しくも悪戯に笑う吉村さんは小さく咳をして、また少し水を口に含めた。
「……」
「お、大間さん?」
ここに入ってきてから、大間さんにすごく見られている気がする。体調が悪いのか、はたまた熱中症気味なのか心配する気持ちが湧いたけど、空っぽのお皿を見てすぐにそれは杞憂だと考えを消し去った。
「真心、相変わらず食べるの早いよね」
「そう?」
「そうでしょ。小学校の遠足でも、一人早く食べ終わって遊んでたじゃん」
「なんなら、先食べ終わった組で海行っとく?」
「ううん、大丈夫」
「即答!?」
同じく空っぽの皿を大間さんの皿に重ねようと泰河が腰を浮かせて大間さんを誘ったけど、すぐに玉砕した。
「うわ、フラれてやんのー」
「ううっ、フラれた……」
泰河が腕を目に押し当てる動作をし、隣の藍野さんがポンポンと肩を叩く。やっぱりこいつはやかましい。そんなやり取りを横目に、僕は最後の一口をかき込んだ。
「ごちそうさまでした」
合わせた手をほどいて、僕も皿を泰河の皿の上に重ねた。
「こーた、先行くか」
「いや、待とうよ」
今度は行く気満々で立ち上がった泰河を僕がなだめる形になり、すぐに机に伏せてしまった泰河を見て笑いをこらえきれる人はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます