第15.2話
―――少し前、白兎海岸にて。
「……わかった。ごめん、まどか」
光里は電話を切り、周りに困惑の視線を投げかけた。
「向こうはどうにかなるだろうし、こっちはこっちで予定通り、海に行っておくしかないだろうな。幸い、この辺りは歩くだけでも色々ありそうだし。ほら、このジェラート、美味そうじゃない?」
泰河はどこかから取ってきたパンフレットを開き、おすすめのページに載ったジェラートの写真を指さす。
「でも……」
「全く、お前がここに来たがってたことは、あいつらも知ってるから、その厚意は無駄にできないだろ?」
「みっちゃん、二人も頑張って来てくれるはずだから、それまでは二人の分も遊ぼ?」
真心は光里の手を取り、ねだる子供の様に光里の顔を見上げる。
「……わ、わかったよ」
「自転車で来れる距離ではあるから、早ければ昼過ぎには着けるんじゃないか? レンタル用の自転車が残っていて、道が空いてる時の話だろうけど」
「でも、まどかはやる時はやる女だし、大丈夫でしょ」
「あ、あの、えーと…………泰河、くん?」
真心はもじもじしながら、スマホを触る泰河の名前を呼ぶ。
「ん? どした?」
「島野くんは、大丈夫かな」
「こーた? そういえばあいつ連絡返してこないな。さっきの電話じゃ合流してるっぽかったけど、ってちょうど来た」
泰河はスマホの画面を見るよう二人に促す。
―――――――――
(『OK』と黒猫が尻尾で丸を作るスタンプ)
『泰河たちもまとまってるんだったら安心だね』
『みんなも無事そうでよかった』
(送信を取り消しました)
(送信を取り消しました)
(送信を取り消しました)
『とりあえず三人はゆっくり楽しんでおいてねー』
『私と島野くんもゆっくり行くから』
―――――――――
「あ、返信しなきゃ」
真心はその続きに、『気を付けてね』と黒猫が目をうるうるさせているスタンプを送った。とりあえず一安心のため息をついていると、二人は何やら言い合いをしているようだった。
「さすがに白シャツジーパンは被ると思った」
「俺のはロゴがあるから大丈夫。そっちもジーパンにダメージ入ってるだろ?」
「そんなの誤差でしょ。まあ、まさか真心も同じ服装で来るとは思わなかったけどね」
「だって、こっちがいいって皆言ってたから」
「それはそうだけど。だって昨日真心がグルに上げた二つの写真、どう考えてもこっち一択だったもん」
光里はスマホの画面と本人を見比べて、改めて真心本人を指さした。スマホの方には、水色のタンクトップに茶色ののショートパンツという、虫取り少年のようなファッションが床に広げられている写真が写っていた。
「まあ、麦わら帽子はいいんじゃないか? 今日カンカン照りだし。それだけチョイスしてきたのは良かったと思うぞ」
「そ、そう……?」
真心は風で飛ばないように、麦わら帽子を頭に押し付ける。
「これさ、あの二人もこれ着てたら面白くね」
「ちょっとそれはきもいかも」
「うわ、まどかの陰口言ってるー」
「違う。島野の方」
「うわっ、もっとひどい。女子怖っ」
泰河は明らかに身を引いて非難の姿勢を見せる。
「島野くんは別の服装で来る気がする」
「そう? じゃあ外れたら飲み物奢りで」
「みっちゃん」
「何? 賭けに負けるのが怖いの?」
「飲み物は高い」
「そっち……?」
パチパチと線香花火程度の火花を飛ばす二人から、さらに身を引いて避難した泰河はスマホを開き、これから冒険をする二人に役立つ情報を探し始めた。電車はもちろん無理。徒歩はぎりぎり現実的な距離だけど、海で遊ぶ体力はなくなりそう。タクシーは三千円弱。そして本命の自転車―――レンタサイクルのページを見ると、返却が必須と書いてあった。つまり乗り捨てはだめらしい。
(なるほどな。やっぱり自転車一択だろうな。帰りは白兎海岸駅で別れることになるけど、仕方ないか……ん?)
泰河がなんとはなしにメッセージアプリを開くと、このグループ以外からの通知に気づいた。
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