第6.9話
ムシムシする日が増えてきて梅雨の訪れを実感しているこの頃けれど、今日の湿度はそれほど高くなかった。気温も近年にしては珍しく低く、過ごしやすい気候だ。
「……ふわぁ」
僕は欠伸をかみ殺さずに、大々的に放出する。
約束の土曜日、朝十時に集合だったけど遅れるのが心配―――というか随分前の大間さんに付き合った時みたいにはならないために、早めに来たのだけど……。
(さすがに九時半は早すぎたよな)
泰河たちゲーム仲間ともそんなに出かけるわけじゃないから、人と外出をする勘がすっかり抜けてしまっている。というか、こうやって友達と休日にお出掛けした記憶があまりない。
遅刻する不安感はなくなったものの、代わっていつ来るかわからない緊張感が体を駆け巡ってきた。
「ちょっとトイレ行こう……」
駅の近くにある、開店直後でガラガラのスーパーに寄り、男性用トイレに入る。
用を足して手を洗っていると、鏡越しに後ろを見知った顔が通り過ぎるのを見た。
「……泰河?」
「え、こーたじゃん」
それだけ言葉を交わして、僕は外に、泰河は中に向かった。
*****
「お、待ってたのか」
「そりゃ、こっちも暇してたところだったし」
ハンカチ片手にトイレから出てきた泰河を迎え、それとなくスーパーの外に向かって歩き出した。
「何か用事?」
「ちょっと漫画の新刊を買いに。ほら、この上に書店あるだろ?」
「ああ、あそこね」
「ほら」
カバンからビニール袋に入った本を取り出して見せてくれた。この漫画が元となったゲームもしたことがあったけど、僕はあまりハマらなかった。
「午後練あるから早めに起きてたし、ちょうどよかったからさ」
「あー、昨日体育の後に言ってたな」
「なんか中止になるっぽいけど」
「なんで?」
「お前、それも合わせて昨日言ったろ。顧問が用事ができたって昨日の部活で言われた。代役が見つからなかったらなくなるんだと。別に何もなくても行くつもりだったから変わんないけどな」
ビニール袋をカバンに入れたところで泰河は立ち止まり、前を指した。
「じゃあ、俺こっちだから」
「オッケー。じゃあまた来しゅ……いや、今晩か」
「今晩? あー…………ごめんパス。テスト勉強しないと」
「早くない? まだテストまで三週間ぐらいあるんじゃ」
「直前に大会あるから前もってしておくの。偉くね?」
「最後のが無かったら偉かった」
「お前なぁ。ふっ」
微かに微笑んだ泰河はこちらに手を振り、浮足立った足取りで横断歩道を渡っていった。
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