第8.5話
―――到着後、一店舗目にて。
「……なんか、男子が入っちゃいけないお店って感じするんだけど」
「え? でもメンズの商品もあるよ?」
店の入り口に立ち、看板と店の中を交互に見ていると、大間さんは、一番手近なハンガーラックにかかったスカジャンを手に取ってこちらに差し出す。
(大間さんはそれ、僕に似合うと思ってるのかな……)
「……着てみていい?」
「いいけど」
僕は大間さんから受け取り、上から赤いスカジャンを羽織る。
「鏡こっち」
「ありがとう」
大間さんに誘導されて、壁に据え付けられた大きな鏡を見る。
(これが、おしゃれ……)
これでパンチパーマにすれば、僕でも面白いことは言えるのかもしれない。でも僕は今の髪形を変えるつもりはない。
(というか校則違反でしょ!じゃなかった。校則違反や、やないかい?)
「……」
「大間さん?」
大間さんは僕を鏡越しに見る。顎に手を当てて何かを考え込んでいる様子は、授業中にはあまり見られない姿だ。
「……かわいい」
「え?」
「ちょっと二人、何油売ってるの……って、ぷっ」
何着か服を抱えた藍野さんがこちらにやって来るや否や、こらえきれず笑いだした。
「光里ちゃん、そんなに買ったの?」
「これは試着用。後でもっと数絞るし、まだ決めてないから。いやいやそれより、なんでこいつこんなの着てるの?」
「い、いや、それは……」
(やっぱり似合ってないんだろうなぁ)
「……まあ、それはそれでアリじゃない?」
「え?」
「いや、やっぱりなし。なんかおっさん臭い」
「げっ」
僕は思わず店の外を見る。それに該当する人は何人かいたが、こちらには目もくれていないようだったため、胸をなでおろす。
「別のところ行こ……って、島野くん、何してるの?」
吉村さんの声が近づいてくるのが聞こえたが、その声色的に同じことを言われるのは明らかだろう。
「はい、すみません」
僕はスカジャンを脱ぎ、大間さんから受け取ったハンガーに掛け直す。
「……あれ、みっちゃん試着するの?」
「うん、ちょっと気になって」
「わかった。じゃあ二人とももう少し待っててー」
「ちょっと、押すなって」
吉村さんは藍野さんの背中を押して店の奥に消えていった。
「……島野くん」
「は、はい、どうしたの……って、え?」
忙しない二人の様子にあっけにとられているところを呼び戻されて隣を見ると、大間さんがスカジャンを着ていた。それもさっきまで僕が着ていたものだった。ルーズな白ズボンと相まって、結構似合っている、と思う。
「い、いいと思う」
「そう? かわいい?」
大間さんは首と体を傾け、片足でバランスを取る。こんなポーズの写真をどこかの雑誌で見た覚えがある。
「えっ!? かっ、わ……いいと思います…………」
段々下を向きながらも精いっぱい褒める僕をよそに、大間さんは得意気に鼻を鳴らし、僕たちが映った鏡を写真に撮ったようだった。
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