第7.1話

「……で、ドリンクバーに人がたくさん並んでて、途中で店員さんが補充するタイミングもあって、ようやく自分たちの番が来た時に機械が壊れて、別の階にもないから諦めて帰ってきたと」


「よくそこまでまとめたね、島野くん」


「そう?」


 三人が戻ってきてから、すっと元の位置に戻った大間さんは音の鳴らない拍手をする。素直に嬉しい。


「そう。本当についてない、俺たち」


 泰河が肩を落とす向こうで、吉村さんが一枚の紙を机に置く。


「まあまあ、お詫びでこの特製ドリンク一杯無料にしてくれるらしいし」


「へー……」


 僕はメニューを覗き込む。

 メニューには四種類のドリンクが載っている。かなり凝ったドリンクで、どこかのカフェにでも置いてそうな感じだ。一杯五百円と書いてあるし、一見かなりお得なサービスだと思ったけど。


(炭酸かぁ……)


「私、これで」


 大間さんは悩む間もなく、いちごジュースを選んだ。シンプルな赤いジュースの上にアイスが乗ったおしゃれなドリンクだ。他のドリンクと比べて一番トッピングが少なく、せっかく頼むならもっといいのにすればいいのに、と思う自分がいる。


「じゃあ俺も」


 続いて泰河もそれを指さす。


「え、なんで?」


「なんでって?」


「いや、せっかくならこっちの豪華な方にしたらいいんじゃない?」


「いや、俺朝からこんなの無理だわ。それに炭酸無理だし」


「あれ、無理だっけ。家に皆で遊びに行った時飲んでるじゃん」


「あれは別。付き合いで飲むことはあっても、自分からは飲まん」


 泰河は腕を組んで言い張る。


「酒かよ。まあ、私も炭酸無理だし、消去法でそれだなー」


「みっちゃん、炭酸飲めないの可愛いよねー」


「まどかも飲めないくせにー!」


 吉村さんが藍野さんをつつくと、藍野さんもつつき返して対抗した。


「だから私も同じのにする。島野くんは?」


「僕も同じので。炭酸無理だし」


「そうなんだ。炭酸無理族多いね」


「なんだその一族。まあ、こいつは微炭酸も無理だからな。『微炭酸の微とか微じゃないでしょ。炭酸は強い弱いじゃない。あるかないかだ』って言ってたし」


「よく一言一句昔言ったことを覚えてるね。じゃなくて、わざわざ言わなくてもいいから」


 泰河の腕にグーの手をぐりぐりする。


「ふふっ。島野くんってさー……」


「……え、何?」


「ううん、やっぱりなんでもなーい」


 吉村さんは何かを言いかけて、やめた。そういうのは最後まで言ってもらわないとずっと気になるのに。


「じゃあ頼むね」


 大間さんは受話器を手に取って、いちごジュースを五杯注文した。


「そういえば、大間さんは炭酸無理なの?」


「……私はいちごが好きだから」


 泰河が尋ねると、大間さんは少し間をおいてから答えた。なんだかんだ今日初めて二人が話したような気がする。


(……答えになってないような気が)


「え、じゃあ炭酸は?」


「……好き」


 また間を置いてから答えた。少しドキッとしてから、あることに気づいた。


(あれ、じゃあこっちの方が……)


「え、じゃあこっちの方がいちごたくさん乗ってたけど」


 藍野さんが別メニューを指さした。そっちはもはやパフェみたいにクッキーやコーンフレークが盛られたドリンクで、これがタダになるなら確かによさそう。


(でもそれに炭酸が合うのか……?)


「ごちゃごちゃしてるの嫌い」


 大間さんは届いたジュースを全員に配ってから、いち早くストローに口を付け、満足気な表情で味わっていた。

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