第1.3話

「……くしゅん」


 珍しく授業に参加している大間さんが隣でくしゃみをしている。

 昨日雨に降られたから風邪を引いてしまったのだろう。現に今、安らかに眠る暇もなく、頻繁にティッシュを取り出して鼻をかんでいる。


(僕のせいだ。僕が気を利かせて何かしてあげられていたら。カバンの奥に忍ばせていた小銭は、コンビニでビニール傘を買うには十分だったはずだ。現に僕は寒気も喉の違和感もなく、こうして授業を受けられている)


「あ」


 隣で声が漏れる。大間さんの方を見ると、ポケットティッシュの最後の一枚をよそに、空っぽになったビニールを丁寧に結んでいた。もしかしてティッシュがなくなったのでは。それなら。


「大間さん」


「ん?」


(チャンス……え)


 僕がカバンからポケットティッシュを取り出し、差し出そうとした時、大間さんは新しいポケットティッシュを取り出していた。


「あ、なんかごめん」


 そう言って大間さんは鼻をかむ。


「私、花粉症だから。ヒノキ。雨の翌日は、ちょっときつい」


 また、大間さんは鼻をかんだ。

 僕は、そのポケットティッシュで、隠れて涙を拭いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る