瓜二つの「彼女」はどちらが本物か

「姉」

 私は何者だろうか。

 私は双子だ。

 私が産まれたときにもう一人の私が産まれてきたのだ。そう。それはよく私に似た他人だ。でも、他人ではない。私なのだ。いわゆるもう一人の私だ。

 分別の上では私が姉となっている。一方の私が妹だ。

 瓜二つ。よく似ている。親でも間違える。鏡で照らし合わせたかのように。ドッペルゲンガーのように。

 妹と私は容姿だけではなく中身も似ていた。好み、仕草、思考、あらゆるものが酷似していた。

 気持ちが悪かった。

 本当は、幻影なのではないか。どうして自分のコピーが出来上がってしまったのか。

 ひょっとすると、私は半分人間なのではないか。

 要するに、一人だったものが二つに離れてしまったのではないか。

 だったら、くっつければいいのではないか。

 体も心も全て一つにしてしまえば、それでようやく私という存在が一つの個となるのではないか。

 でも、どうすればいいのか。

 どうしたら一つになれるのだろうか……。


「妹」

 私は何者だろうか。

 私は双子だ。

 私が産まれる少し前にもう一人の私が産まれていたのだ。そう。それはよく私に似た他人だ。でも、他人ではない。私なのだ。いわゆるもう一人の私だ。

 分別の上では私が妹となっている。一方の私が姉だ。

 好みもよく似ている。二人とも必ず好きなものが一緒になる。服までも一緒。違いなんてない。

 親にも見分けがつかない。だから私が姉と名乗ってもそのまま信じるだろう。

 私はある種の感動を覚えている。

 何故、私が二人もいるのだろうか。私が二人もこの世に生まれてきたのだろうか。

 そう。これは挑戦なのだ。神様からの。お告げなのだ。

 私は二人いる。

 本物の私は一人しかいない。

 ならば、やる事は一つしかないのだ。


「姉」

 魂はどこにあるのだろうか。

 私が思うに、それは体の中にあるのだと思う。到る所にそれがある。頭の先から足の指先まで。毛にだってあるんだ。いいや、身体だけではない。そのほかにも、有るに違いない。私の名前にだって。私が使用したものにだって。有るに違いない。

 私という存在そのものが私だ。それが私の魂なのだ。

 だから、私の魂は二つに分かれてしまったのだと思う。

 その別れた魂が妹だ。

 私たちは一つにならなければならない。

 別れた魂は一つになるべきなのだ。別れたままではいけないのだ。

 だから、私がやるべきことは一つなのだ。その魂を回収すればいい。それだけだ。でも、どうすればいいのだろうか。私にはまだ分からなかった。


「妹」

 私たちは街だ。都市だ。そう例えよう。

 同じような街並み雰囲気。双子のように瓜二つ。立ち並ぶビルも、お店も、何もかも同じだ。

 でも、違うものもある。

 人だ。そこの地域に住む人たちは別々だ。そこだけは似ても似つかない。

 外観は同じでも、そこに住まう人たちによって、内が異なるものだ。

 仮に条例か何かで動きを同じにさせようとしても、摩擦が生じるのだ。

 流れていく人の数ほど摩擦が激しくなる。異なってくる。ぶれていく。ずれていく。

 人の動きは毎日同じではない。体調がよろしいときもあれば悪い時だってある。寝る時間だって、起きる時間だって、ご飯を食べる時間だって、外に出る時間だって、家の中にいる時間だって、その日その日でまるで違うのだ。

 出会う人の数も違うだろう。いい人に出逢い今日は得したような気分になったり、悪い人に出逢い今日は損したような気分になったり。様々だ。

 過ごした時間、共に歩んできた人、置かれた環境により、人というのは……自分というのが、形造られていくものだ。


 そう。私たちでさえ、例外ではない。

 

「姉」

 人を殺した時、よく殺した時の感覚が手に残っている、というのがある。ドラマだか漫画だかよくわからないが、現実に本当にありえる話なのかはわからないが、よくそう言った事を聞く。

 それはつまるところ、殺された人の魂が殺した人の中に入って来たということだろう。そのような感じが私にはする。

 刺殺したのなら、ナイフからその人の魂の一部が移りこむ。そこから、そのナイフが仲介役となり、手に移ってくる。

 自分、その魂というのは到る所にあるのだ。残留するといった方が正しいだろう。

 人は知らず知らずのうちに、自分という痕跡を残していっているのだ。それが過去というのを作り出し、さらには道をも作り出す。

 その道は後戻りはできない。一方通行だ。

 でもそれでこそ、意味があるのだ。

 後悔はするあろう。しかし、同じ轍は二度も踏むことはないだろう。それが経験だ。

 だから、私は後悔などしない。

 私という存在を一つにする為に、どんなことだってやる。



「妹」

 姉は私にとって邪魔者でしかない。

 私という存在は、一つであるからこそ意味があるものだ。輝くものだ。価値だ。

 だから私は薄くなってしまったのだ。姉によって。

 姉という存在が私という存在を淡彩にしているのだ。その存在が邪魔だ。私が私であるために、私という存在を濃厚にするために、彼女を野放しにしてはおけない。

 私という存在を確かなものにさせる為にどんなことだってやる。


「姉」と「妹」


 苦しい。

 痛い。


 助けて。


 私には夢があった。


 私はいつも二人だった。一人として扱われなかった。


 一人として扱われたかった。


 ただそれだけなのに。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。


 燃え盛る炎の中で「私」は眠りにつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る