美しい黒猫三姉妹 第1話

 橋の下に一人の女性が居た。長い髪はぼさぼさで白髪も生えている。服は汚れてはいるものの破れていない。皮膚はお風呂に長い間入れないのか黒く、爪は割れていたり好き放題だ。そんな見た目だから年齢は分からない。

 もちろんそんな彼女には誰も触れてはいけないもののように素通りしている。

 ただ唯一、スーツを着た若い女性だけめげずに会いに来るだけ。

 今日も雨の中、スーツを着た女性は手提げ鞄を持って彼女に会いに行った。彼女の居る場所はあちこち移動している、長年会いに行っているスーツを着た女性だけはおおよその見当がついていた。

 土手の橋の下。今日は雨で地面が柔らかいから汚れても良い靴で慎重に降りていく。橋の下に行くと、にゃーお、と鳴いている彼女が居た。服が汚れるのもかまわず地面に座って黒猫のぬいぐるみを持っている。多分その子と話しているのだろう。

「こんにちは、今日は元気かな?」

 となるべく警戒されないように話しかけるが、彼女は猫を見たままでにゃーおと鳴くだけだった。

 ゆっくりと鞄からタオルを取り出す。そしてまたゆっくり、そっとタオルで髪の毛など拭いていく。その際髪の毛からちらりと見える横顔からは、20代のように見える。が、顔色もよくないので実際のところは分からない。

 ある程度拭き終えると鞄から食べ物の入った袋を取り出した。

「今日は夜に雨が上がるみたいだからその時に着替えようね。はい、これ。最近関東からこっちに進出してね、どうやらここのバーガーも美味しいみたいなの。何個か買ってみたから味見してみて」

 そっと手を持ち袋を腕にかけた。その時、彼女はスーツを着た女性の方を向いて、にゃーお、と言った。あまり前には進めないが最初に会った時よりは遥かに進んでいる。彼女が見るたびに心の底から喜んでいた。

「昨日ね、物凄く楽しい場所があったんだよ。近くには飲食店がたくさんあって朝から晩まで美味しい香りがしているの。きっとあそこに住んでいたら私、グルメになっちゃうわ」

「にゃーお」

「そろそろ自分だけのお家ほしくない?」

「………」

「今日もここは景色が綺麗?」

「にゃーお」

「お仕事が終わったらまたここに来るけどいい?」

「にゃーお」

「また来るね、じゃあね」

 と言って立ち上がると、にゃーお、と言ってから猫の方へ目線を戻した。会話ができているのかは分からないが、それっぽくなっている。まず彼女は顔を見て返事をしているので何か話してくれているのかもしれない。今日のあまり進んでいないように思える成果に満足して、スーツを着た女性は会社へ戻っていった。

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