第6話

 馬車のところで、馬車を使う人たちを眺めながら待っていた。お昼になるにつれ、馬車も人も増えていく。いったいどこへ向かっているのだろう。

 ああ、そういえばどこだか分からないなあ。なんて思い出していたら、ねえ、と話しかけられた。

 もう終わったの?と聞きながら足元を見る。足元にいる猫は頷いてからこちらを見た。

 とりあえずここに乗せてもらった馬車を探すかな、と思いながら猫を抱っこする。あちこち馬車の顔を見ているが人間というのが地味に小さく顔が見づらい。

 首を伸ばしたり少し歩いたりして見てみるがなかなか見つけられない。

 ―こうなれば向こう側に突っ切るふりをするしかない。

 周りの人や馬車になるべくぶつからないように歩いた。あそこの広場よりは人は少ないので避けやすい。なるべくゆっくりと歩きながら顔を見ていく。

 歩きながら、近づきながら見ていたおかげで顔が見やすくなった。

 並んでいる真ん中辺りにちらりと似ている雰囲気があった。真ん中なのでさらにぶつからないように気をつけながら歩いていく。徐々に雰囲気だけじゃなくて顔や馬まで見えた。

 よかった。本当に心の中がほっとする。これでこの子の願いも叶う。

「…あのう」

 と話しかけるとすぐに、おや、と反応した。

「この前の旅人じゃあないか。どうしたんだい?」

「えーと、前に乗り込んでた場所に行きたくて」

「ああ、分かったよ」

 優しく微笑みながら扉を開けた。後ろに乗るのは本日二度目だけど足がゆらっとしてしまって、結局乗るのを手伝ってくれたのも本日二度目となってしまった。どうして皆はコケる事なく上手く乗れるのだろう。

 最初は、馬車が居た場所が真ん中なだけあってノロノロと進んでは止まっていたが、そのうち早く動きだした。


 猫から最後だからと言っていろいろと教えられていたら、同じ道のはずなのに最初に乗っていた時よりも早く着いた。いや、道が違うのだろうか。あの時はたくさん曲がっていたが、今回はそうではないような気がする。

 また手伝われてゆっくりと気をつけながら降りていく。ありがとう、と言うと、すぐにいーえ、と返ってきた。

 降りて周りを見渡したら、最初に乗りに行った時と同じ場所だったのですぐに母猫と歩いてきた道を見つける事ができた。

 早く会わせてあげたいので小走りで向かう。道に入っただけでちょっと息が切れてきた。それでもやめずに走っていく。

 一つ目の角を曲がったときに「ママ!!!」と猫が大声で言った。驚いて足を止めてすぐに周りを見ると、塀の上に母猫が驚いた顔でこちらを見ていた。

 しゃがんで地面に猫を降ろすとすぐに母猫も地面に降りてきた。

 母猫は子を、大丈夫だったかい、怪我はないかい、などと言いながら体を舐めている。猫も安心したのかごろごろと言い始めた。

「どうしたんだい、こんなところへ来て。お家は?」

「あそこ嫌だ!あの家に行ってすぐに妹が投げて落っことされて殺されたんだ。だから帰るために野良になったんだ。兄さんの方は良いお家だったみたいで残るみたい」

 そうかいそうかい、とずっと舐めている。




 またなるべく音をださないように後ろを向こうとした。けど猫はよく聞こえているらしくて親子同時に、ありがとう、と言った。ちらっと見るとこちらを見ている。

「いっぱい教えてくれて私こそありがとう」

 今度は気にする事なく道を進んだ。

 あまりにも気になる場所なのですぐに角を曲がるといつまでも眺めたくなるほどの空色だった。

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