間話 新しい関係:ハヴィク
それでも体調を崩した時に飲む薬やいつも髪に使っている染め粉など、他の人には頼めない僕だけに必要な品がいくつかある。
ハルビオは去り際に、そういったものの買い方を詳しく書いたメモを用意して僕に渡してくれていた。
これから冬になれば、体の弱い僕は町へ外出するのも辛くなるだろう。
特に、今年の冬はハルビオのいない初めての冬だ。何かあってからでは遅いのだし、必要なものは早めに買い揃えておいた方がいい。
そう考えた僕はハヴィクと町に出て、初めて一緒に買い物をしてきた。
「……ああ、疲れた!」
買い出しから帰ってきた僕はコートを脱ぐと薄く汗ばんだ額をぬぐって後ろを振り返った。
「荷物をしまうのは後にしてお茶にしようか、ハヴィク」
「心得たのだ」
「あ、その前に。ちゃんとコートを脱いで掛けないとだめだよ」
きょとんと振り返ったハヴィクに僕は苦笑する。
僕よりもたくさんの荷物を抱えていた彼は、いつもの服の上に僕とお揃いの暖かい革のコートを着ていた。
僕とハヴィクは向かい合わせに椅子に座る。
テーブルにはハヴィクが淹れてくれたお茶と、町で買ってきたばかりのアップルパイが並べられていた。
「わあ、いい匂い。おいしそうだね」
買ってきたのはアップルパイを三切れ。ハヴィクと僕と、もう一切れは夕食を運んできてくれた時にエミリオに渡す分だった。
初めて入った焼き菓子屋にハヴィクは興味津々だった。というよりも買い物自体が珍しかったのだろう。あれは何、これは何と尋ねる顔は僕よりもずっと子どもっぽかった。
お茶を飲んで体を温める僕の向かいで、ハヴィクは興味深そうな顔でアップルパイを味わっていた。
「どう、甘いでしょ?」
「これが甘い味なのだ?」
僕が設定した味覚は、ちゃんと機能しているようだった。僕は頷いて言った。
「そうだよ。僕ね、アップルパイが大好きなんだ」
「では覚えておくのだ」
ハヴィクはそう言って、生真面目な顔でアップルパイをほおばった。その顔が可愛らしくておかしくて、僕は笑いながら自分の分を口に運んだ。
「でも、君にはもっと色んな味も知ってもらいたいからね。次は君が食べたいものを選ぼうか、ハヴィー」
「本当なのだ?」
甘やかすように愛称で呼びかけると、ハヴィクはぱっと顔を上げた。
「では絵の上の方にあった、黒くて大きなものがいいのだ」
「ふうん、ラム酒か、それともプラムを使ったやつかな?」
思い出すように首をかしげた僕に、アップルパイをぺろりと平らげたハヴィクが尋ねた。
「いつ行くのだ、明日なのだ?」
「こらこら、そんなぜいたく言わないの」
僕は苦笑する。これじゃあ本当に、無邪気な子どもと変わらない。
「行くとしても、けっこう先。春になって暖かくなってからだからね」
そんな風に、僕たちは初めての二人ぼっちの冬を、それなりに楽しく過ごしていた。
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