10 三人

 新居に越して落ち着いた頃、兄と安田さんと三人で飲みに行くことにした。費用は安田さん持ちだ。ありがたい。


「で、嵐士はまだ職見つけてないのか……」

「まあまあ、細かいことはいいじゃない。かんぱーい!」


 三人ともタバコを吸うので、席は一気に煙でいっぱいになった。今まで安田さんと飲みに行くと多少は遠慮していた俺だが、あのことを知ってしまっているので、和牛のステーキやら特選の刺身やらをどんどん頼んでやった。

 俺は言った。


「まあ……掃除機くらいはかけてくれるようになったね。あーちゃんの髪のせいでホコリたまるんだから、当然といえば当然なんだけど」

「せっかく新しい部屋なんだから綺麗にしておきたいよね!」


 あまり口うるさく就活のことを言っても逆効果かもしれない、と家事をさせるよう仕向けているのだが、少しずつ上手く行っていて、他にもメモ通りのものをスーパーで買ってくるくらいはできるようになってくれた。これでも進歩だ。

 テーブルいっぱいに広げられた料理にがっつきながら、俺は安田さんに尋ねた。


「そういえば、俺たちに話って何ですか?」


 元々そういうことで呼ばれたのだった。


「あー、もう少し酒飲んでからでいい?」

「はぁ……そうですか」


 安田さんはぐいっとビールを飲み込んだ。それから、兄のしょうもないゲームの話が始まり、やっぱり課金していたことが発覚して叱って、そんなことをしていたら安田さんの目が据わってきた。


「安田さん……大丈夫ですか?」

「ああ……うん。あのさぁ……」


 俺と兄は安田さんをまじまじと見つめた。


「兄弟二人同時に責め立てられたい……」

「はっ?」

「あはっ」


 俺は大きなため息をついた。


「あのねぇ安田さん、いくらバレたからって性癖全開にしすぎなんですよ、もう少し先輩としてのプライド持ってくれますか?」

「だって! おれも! 独り身で! 寂しいんだもん!」


 安田さんの絶叫が店内に響いた。そして、じっとりとした目で俺と兄を交互に見てきた。


「いいよなぁ二人は毎日やりまくってるんだろうなぁ」

「さすがに毎日はしてないよ? ねっ静紀」

「あ、うん……」


 そういう話を堂々としてほしくないのだが。安田さんは酔っているし兄にはそもそも恥じらいがなかった。


「お願い、二人分色つけてキッチリ払うから、癒やしてくれよぉ……」

「静紀、和哉くんも可哀想だし、貰うもの貰ってやってあげようよ」

「ええ……」


 そんなわけで、安田さんを連れて帰った。


「福原くん……その……静紀って呼んでいい?」

「まあ、いいですよ」


 ベッドで安田さんをひん剥いて、兄の指示で動いた。情けなくよがってくる安田さんを見ていると、自然に言葉が出るようになって、俺もすっかり乗り気になってしまった。

 終わってぐったりしている安田さんを放置して、兄と二人でベランダでタバコを吸った。


「静紀……ネチネチ言うの巧いねぇ……」

「そう?」

「うんうん、さすが僕の弟。素質あるよ」

「そんな素質要らないんだけど」


 戻ってくると、安田さんはうとうとしていたので、そのまま寝かせることにした。いくらダブルベッドとはいえ男三人は狭い。どうしてもどっちかの手足があたる。


「静紀ぃ、なんか僕、物足りない」

「はぁ? まだするの?」

「和哉くん邪魔だけどしようよぉ」


 兄がしつこく尻を撫で回してくるので、少しならいいかと応じたのだが、少しではなくなってしまい、繫がっている時に安田さんが起きてしまった。


「目の保養……」


 そんなことを言ってニタニタ見てくるので集中できなかった。

 翌日、ギシギシの身体を起こすと、二人はまだ寝ていた。ベッドをおりて大きく伸びをした。ついこの間まで童貞だったのに三人でするようになるなんて、我ながら兄に毒されすぎていると自嘲した。

 自然に起きてくるまで待つか、とリビングでコーヒーを飲んでいたら、安田さんがやっきた。


「静紀、おはよう……」

「おはようございます。コーヒーでも飲みますか?」

「うん」


 安田さんはスッキリといい笑顔をしていた。


「いやぁ、昨日はありがとう。また頼むよ」

「えっ……またですか……」

「もう普通のことじゃ満足できなくて」


 こんな変態と一緒に働いていたのか俺は。まあ、俺も変態に成り下がったけどな。


「はい、これ昨日の分」


 安田さんから現金を受け取った。正直生活は苦しいのでありがたく頂いておこう。


「じゃあ、おれ帰るね。嵐士が起きたらよろしく伝えておいて」

「はい。お疲れさまでした」


 兄は昼を過ぎても起きなかった。さすがに腹が減ったので頬をつねって起こした。


「あーちゃん。安田さんとっくに帰ったよ」

「ん……そっか。タバコ吸いたい……」


 ベランダに出ると、空気がじめじめとしていた。もう梅雨の時期なのだ。兄が言った。


「三人でするのも楽しいねぇ」

「うん……また頼むよって言われちゃった」


 こんなこと、会社にバレたら一大事だ。仕事中はくれぐれも気を引き締めておこうと思った。

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