第6話 運営side

「正式サービス開始から四日、これと言ったバグも無く、順調に進んでいるな」


 運営の一人がそう声を上げた。


「はい、初期ロット十万人のプレイヤー達もほぼ全員が初日にキャラクリを終え、ゲームをプレイしています。」

「後数百人ほどがログインしていませんが時間の問題でしょう。それに一番同時接続の多い初日を、無事に乗り越えているのですから、問題なんて早々起きないでしょう」

「主任!!それはフラグっすよ!」


 そうやって運営一同はみんなで笑っていた。

 運営も仮想空間の中で仕事をしている。現実よりも出来る事が多いため、専用の空間を用意しているのである。


「プレイヤーたちの動向はどうだ?」


 主任と呼ばれた男が部下らしき女性に尋ねる。


「そうですね、トッププレイヤーでレベル16、まだ最初の町以外は解放されていませんが、これも時間の問題ですね」

「そうか、クエストの達成状況は?不具合等出てはいないな?」

「問題なしっすよ、主任は心配性っすねー」


 部下の男はそういうが、問題が出るとその後始末が、事前の対策よりも大変なのだと、そう知っている主任の男は、なかなか心休まる暇がない。

 こうして談笑しながらも、仕事をしっかりとこなしていたのだが。


「……ん?主任、GMコールです!。なんでもチュートリアルのナビ妖精が途中で消えてしまったと!!」

「!?確認急げ!!」

「主任、こっちもです!!チュートリアルルームに入ったが何も起こらないと!」

「主任!他からも同様のGMコールが相次いでいます!!」

「現在展開されているチュートリアルルーム全てをチェックしろ!」


 こうして数百程展開されている、チュートリアルルームのチェックをする事数秒、ナビ妖精が消えていないルームを発見。


「主任!!一件だけナビ妖精が消えていません!!現在ログの解析中です!」

「分かった!何か見つかればすぐに報告しろ!!」


 運営一同、何があっても対応できる様、待ち構えて数秒。


「はぁ!?しゅ、主任!!」

「何か分かったか!?」

「な、ナビ妖精が、て、テイムされています!!」


 解析結果の報告をしていた男の台詞に、運営一同目が飛び出さんばかりに、見開かれた。


「テイムだと!?何故ナビ妖精がテイムできるんだ!!」

「わ、分かりません!!解析の結果、チート等は確認されていません」

「プレイヤーのチートで無いなら、ナビ妖精のシステムを調べろ!!ナビ妖精の設計担当はどいつだ!?」

「わ、私ですぅっ!!」


 運営はすでにパニックである。


「心当たりは!!」

「い、いえ、ありませぇんっ!!」

「とにかく!一分以内に現在チュートリアルを中断されている、全プレイヤーに一斉謝罪メールを送れ!チュートリアルプログラムを利用して別のAIにチュートリアルを引き継がせろ!!」

「「「は、はいぃーーー!!!」」」


 一分後、対応に奔走していた人員は、ぐったりとデスクに突っ伏していた。


「「「対応、終わりましたぁーー……」」」

「ご苦労さん、おい、ナビ妖精の方は何か分かったか?」


 心なしか主任もぐったりとしている。


「ナビ妖精の解析終了しました、プログラムにバグ等の不具合は見つかりませんでした…しかし」

「なんだ、言ってみろ」

「は、はい。ナビ妖精に搭載されているAIは、フィールドに存在する魔物と同じものでした……」


 解析をしていた男の台詞に、運営一同がナビ妖精の設計担当を見た。


「……よし、言い訳を聞こう……」


 主任は静かに、担当の女性に声をかけた。


「す、すみません。ナビ妖精はチュートリアルプログラムをインストールして、プレイヤー毎にチュートリアルに差が出るのを防ぐ為、行動パターンがテンプレート化されている、フィールドmobのAIを搭載し、全プレイヤーに同じ個体のナビ妖精が着くように設定しました」

「なるほど、行動自体は理に叶っているし、俺も許可を出した記憶があるな…」


 設計担当は肩を落とし、主任も天を仰いでいる。


「つまり、今回の騒動は、同時多数に存在していた同一個体が、テイムされた事によって、唯一個体として固定化された為、ナビ妖精が同時に存在出来なくなった…と」

「そういう事になりますねぇ…」

「「「誰が予想できるかっ……」」」

「それよりも、テイムされたナビ妖精が問題だ」

「そうですね、元がナビ妖精の為、システムに介入、及び各種データの閲覧ができるなど、一プレイヤーに与えられる権限ではありません…しかし……」


 運営一同はテイムされた、元ナビ妖精とテイムしたプレイヤーが映るモニターを見ながら、心を一つにしていた。


 (((((あれ程楽しそうに、妖精と遊んでいる少女から、取り上げられるかっ……!!!)))))


 運営陣はこの後、必死で対策を考えた。




 

 

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