第5話

 ユアドの正式サービス開始から三日後、ようやくボクの体調は良くなったが、大事をとってもう一日ゆっくりと休んだ。そして、


「やっとユアドが出来るのです!!」


 ボクはベッドの上で、両手を突き上げて立っていた。


「まずはキャラクタークリエイトからなのです」


 早速、チョーカー型ギアを首に取り付け、右側のスイッチに触れる。すぐに視界にARでユアドのログイン画面が表示される。


「ワクワクなのですぅー」


 このログイン画面で、事前に設定したキーワードを唱える事で、ゲームにログインできるらしい。

 因みに、キーワードは人それぞれで、シンプルに『ログイン』と唱える人や、『ダイヴオン』『リンクスタート』変わり種だと、『夢幻の彼方へ、さぁ行くぞ』なんて設定している人も居るらしい。


 ボクも変わり種に入るけど、ユアドでの目標をキーワードにしてみた。


「『友達百人できるかなっ♪』」


 キーワードを唱えたボクの意識は、ARに表示されたログイン画面からVRへと落ちていくのだった。




「わぁー、……って何も無いのです!!」


 ログインして最初に目にしたのは何も無い真っ白な部屋。所謂キャラクリ部屋である。


「これからどうすれば良いのです?」


 一人で途方に暮れていると、後ろから声をかけられました。


『これより、キャラクタークリエイト、及びチュートリアルを開始します』


 振り返るとそこには、宙に浮かぶ小さな妖精さんがいたのです。


「わぁ!!妖精さんなのです!?」

『まずはじめにキャラクターネームを決めて下さい』


 妖精さんに興奮したボクだけど、妖精さんはにっこりと微笑んだまま、ボクの名前を聞いて来ました。


「ホントの名前は遥なのです、でもゲームではハルノでお願いするのです!」


 リアルの名前をそのまま使うのは、危ないのだと先日ふう姉に言われていたので、色々考えてみたのだけれど、思い付かなかったので、ハルカとアルビノでハルノにしました。これならふう姉もあーちゃんも、ボクの事ちゃんとハルって呼んでくれるのです。


『登録確認、重複なし“ハルノ”様で登録いたします』


 どうやら名前の被りもなく登録ができたようだ。ここで気になっていた事を妖精さんに聞いてみました。


「妖精さん!妖精さんのお名前教えてくださいなのです!」


 妖精さんは少し動きを止めた後、にっこりと微笑んだまま返答した。


『申し訳ございません、質問に対する回答が設定されておりません』

「妖精さんはお名前無いのです??」

『申し訳ございません、質問に対する回答が設定されておりません』

「むぅ………」


 どうやらこの妖精に名前は無いのか、名前を回答するための台詞が設定されていないようで、定型文しか返って来ません。


 「むむむ、だったらボクが妖精のお名前考えるのです!!」


 ボクは妖精さんの名前が無いのは可愛そうだと思い、名前を付けてあげる事にしました。本来ならばキャラクターネーム登録後すぐに、種族の選択へ移行するはずなのですが、妖精さんはボクの名付けを待っているかのように、ただにっこりと微笑んでいます。


「むぅ……む?むむぅ……、そうなのです!」


 しばらく考えていたのだが、思い付かず、唸りながらふと周りを見渡せば、何も無い真っ白な部屋が目に映り、閃いた。


「妖精さんのお名前はアルなのです!ボクのアルビノとこの真っ白なお部屋から取って、アルなのです!これでボクとお揃いなのですぅ!!」


 ボクがそう名付けた瞬間、妖精さん――アルはすごいスピードでこちらに飛んできて、ボクの頬にキスをして、そのままボクをギュゥ〜っと抱きしめたのだった。






 

 

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