第7話 “PRP”

 右腕、右足を切断されたハヤトさんとコウジさんは今は身動き1つしていない。多分出血多量で死んだのだろう。

 そしてアキラ先輩は目の前で大きな岩の下敷きになって…さっきまではうめき声のようなものが聞こえていたのだが…それも今はもう聞こえない。流れ出ている血の量からみてもすでに事切れているのかもしれない。


 1人の少年が「雷神会 住吉支部」の主力メンバーを葬った。ついさっきまでは仲間…とまではいかないが、たった半年だけだったけど僕にとっては雲の上の、恐怖の対象だった先輩達を…まるで子供をあしらうように簡単に断罪する様子を見せつけられて恐怖した。


 僕も下っ端とはいえ、「雷神会 住吉支部」の一員だ。実は…メンバーの今までの悪行の事は知っていた。3人以外のメンバーも脅迫や誘拐や強姦、そして殺人をしていた事を知っていた。


 大厄災後に突如として現れたダンジョン。そのダンジョンから湧き出すベーダー侵略者と名付けられた謎の生命体を倒す者達は冒険者プレイヤーと呼ばれた。


 ベーダー侵略者を倒すことによって得られる謎の力レベル。そのレベルが上がれば上がるほど強くなる人類。


 そして初めてレベルを上げる事によって得られる神の恩恵“スキル”を駆使して、人類は次のステージへ新人類へと押し上げられたのだった。


 しかし全ての人類がその恩恵を受けられてわけではなく、ダンジョンに挑み早々に命を散らす者達の方が多かった事による弊害、得られた者と得られない一般市民との間の格差は広がっていった。


 格差が広がれば広がるほどに生き残り、強くなった冒険者プレイヤー達に芽生える選民意識。自分たちは一般人達とは違う、神に選ばれし者達なのだ!


 ダンジョン初期にはそういった冒険者プレイヤー達が溢れて、社会が荒れた時期もあったのだが…実はレベルによって強くなるとはいえ、人外と言われるレベル50以上の上位冒険者プレイヤーは全体のほんの数%だけしかいない。


 だからほとんどの冒険者プレイヤーは一般人よりほんの少しすぐれているだけなのだ。


 しかし多少とはいえレベルを上げて強くなった冒険者プレイヤー達の中には勘違いしてダンジョン以外で狼藉を働く事件も多発していた。


 そんな状態を危惧して、警察組織とは別に冒険者プレイヤー専門の治安維持部隊 通称“PRP”(Player riot police)<プレイヤー ライオット ポリス>結成されて、冒険者プレイヤー達も悪行を働けば法の元に裁かれる事になるのだ。


 そのおかげもあって日本は法治国家としての社会を大厄災前と変わらずに表向きは体面を保てているのだ。


 しかし、世間にはまことしやかに流れる噂があった。


 ネットやSNSなどの書き込みに都市伝説的な扱いで、その“PRP”とは別に人外と呼ばれる理不尽な力に対抗する超法規的組織、マダーライセンス 〜政府公認 殺人許可証を持つ冒険者プレイヤー〜も存在するらしいのだが…真偽はさだかではない。


 この目の前の少年は“PRP”なのだろう。


 ダンジョン内は無法地帯だ。ダンジョン内では法は適用されない。力こそ全てという別世界なのだ。だからダンジョン内で起こる全ては自己責任なのだ。たとえ理不尽に殴られ、犯され、殺されようとも全て自己責任。力なき者は力ある者に搾取される場所…それがダンジョンなのだ。


 もちろん冒険者プレイヤーとはいえ無法者達ばかりではない、ほんとんどの冒険者プレイヤーは良識のある人達なのだ。


 自分も冒険者プレイヤーになったからにはベーダー侵略者や他の冒険者に搾取されないよう力をつける為に日々自分の牙を磨いてきたのだ。


 しかし…僕の入ったチーム「雷神会 住吉支部」は無法者達の集まりだった。チームのトップである雷神こと榊ジンさんの東京本部を中心とした地方に10支部あるうちの1つ。大抵の冒険者プレイヤー達は「雷神」の名を出せば揉め事を嫌がり近づこうとしなかった。


 世間一般的には反社のような扱いだ。だから僕が「雷神会 住吉支部」に入れてもらえる事になった時も学校の友達や先生から心配する声をかけられたが僕なら大丈夫だろうという変な自信もあって聞く耳を持たなかった。


 「雷神会 住吉支部」はアキラ先輩が支部長で10人程度が所属していた小さな支部だった。


 チームメイト達が殺人する場面などは見た事はなかったのだが、まず初めに覚えた仕事が事務所の風呂場で死体をバラす事だった。


 バラした死体はキャリーカートに入れて、ダンジョンに潜る日に雑用として付き添い、決められた場所に捨てに行かされたていた。


 今年の新人は僕しかいなかったので…主な仕事だった。


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