第6話 だめええええええええええ!
二人は最初痛みで転げ回って喚き散らしていたが、次第に声も動き小さくなって動かなくなっていった。出血がひどいが、うめき声は聞こえるのでまだ生きてはいるのだろうけど…先は長くないだろう。
少年はそんな二人を見届ける事なく最後に残ったアキラ先輩に近付く。
「お待たせ。最後は…橘アキラ25歳。家族構成とかはどうでもいいな。レベルは14でこの中では一番高いが…スキルが剛腕か。ん〜微妙なスキルだけど一般人相手じゃあ有効かな。物理的な力強さっていうのは目に見えて分かりやすい効果があるしな。んで、肝心な今まで殺した人数は…25人か。多いな。」
…25人。もはや殺人鬼じゃないか。いくら
「お前は一体何者だ?」
「おお〜仲間2人が殺されてるというのにまだそんな口が訊けるとは、さすが25人も人を殺してるだけはあるな。内心すんごくビビっていると思うけどな(笑)」
「うるせええええ! お前こんな事してどうなるかわかってるんだろうな?」
「…身体の自由を奪われている状態でよくそんな啖呵きれるな。すごいなお前。さすが25人…」
「俺は「雷神会 住吉支部」所属だ! 雷神会の一員なんだぜ! 知ってるのか!」
「………………」
「俺に手を出すって事は全国にある雷神会全体に喧嘩売るのと一緒って事だぞ! いいのか?」
「………………」
少年は黙っている。雷神会っていうのは有名な上位ランカー 榊ジン 率いる冒険者クランなのだ。支部は全国各地にあって総人数100人は超えているらしい。うちはその住吉支部でメンバーは僕も含めて10人くらいなのだ。
「二人も殺してくれてよ〜どう落とし前つけてくれるんだよお前! この事が知れたら雷神こと榊ジンさんが黙っちゃいね〜ぞコラ!」
「………………」
少年が何も言わないのを好機とみたのかアキラ先輩はここぞとばかりに攻勢に出た。
「まぁ二人を殺した事は黙っておいてやるから、早く俺を解放しろよ。何、悪いようにはしねえよ。榊ゆずるさんには黙っててやるからよ、へへへ。」
「…………ぷっ」
「なんだお前? 何がおかしいんだ! 殺すぞ!」
「ぷふっ…だ、ダメだ…ぶわはははははは。」
少年がいきなり笑い出した。大きな声で笑い出した。
その間アキラ先輩が何度も怒鳴ったり威嚇していたが無視をして笑い続けている。しばらくして笑い疲れたのか少年はまたアキラ先輩と向き合った。
「雷神 榊ジンね…ぷぷっ、お前らからみたら雲の上の存在なんだろうけど、あのビビリ野郎を…ぷぷっ」
「てっ、てめえジンさんの悪口を言うなんて雷神の怖さを知らねえから…」
「知ってる知ってる。めっちゃ知ってるわ。お前らごときには神同然に思えるんだろうけど…全然大したことないからあいつ。」
「…なに知ったかでイキがってるんだよお前、殺されるぞ!」
少年はアキラ先輩の威嚇を聞いてまた大きな声で笑い出した。
「全くアキラ先輩は笑わせてくれるなよな〜。身体の自由を奪われて口だけは達者なんだもんな〜まさに口だけ番長じゃねえかお前。」
「なっ、て、てっめえええええ」
アキラ先輩は顔を真っ赤にして怒っている。今にも血管がキレそうなぐらい怒っている。
「ほら、そんなに怒っても君は口だけしか出せない。まぁ身体が自由になってもオレには全く、これっぽっちも、ミジンコほどにも勝てる見込みなんてないんだけどな。」
「ぐ、ぐぐぐ。そ、そうかよ。そんなに言うなら俺の身体を解いて戦ってみろよ。怖いのか? 怖いんだろうお前はよ〜」
「はーー、分かりやすいほど単純な挑発だな。そんなんでよし! 身体を自由にして戦ってやろう! なんて言うわけないだろう。でもまぁ今回は特別に、特別だぞ!」
少年はそう言うと指をパチンと鳴らした。
するとアキラ先輩が身体が自由になったのか動き出す。思いっきり少年めがけて右ストレートを繰り出した。
それをひょいと簡単に見切った少年に間髪入れずに膝を入れようとするも、それも簡単にひょいと避けられる。
「ふむ、体術も街のチンピラレベルだな。全然たいした事ないな。やっぱりレベル10程度だからこんなものか。」
「スキル剛腕。」
ズズ〜ン
アキラ先輩はスキルを発動して近くにあった岩を軽々と持ち上げ、少年に投げつけるももちろん当たらず、避けた少年を忌々しく睨みつける。
「スキル剛腕に絶対の自信があるみたいだけど…せいぜい200kgが持てるってところかな。よし面白い事考えた。お前のスキルを今ここで限界突破させてやろう!」
そう言って少年が楽しそうに笑い、また指を鳴らすとアキラ先輩が固まった。
「ワンパターンだけど身体の自由を奪わさせてもらったよ。だってお前にせっかくラストチャンスを与えたけど予想通りでつまんないしうっとおしかったから。それでと…これでいいか。ほれ」
少年はアキラ先輩に岩を持たせた。
「はい、今持ち上げているこの岩がだいたい100kgだな。その上に100kgの岩を積みま〜す。」
ゴッと音を立ててどこからともなく同じくらいの大きさの岩がアキラ先輩が持ち上げる岩の上に積み重なった。アキラ先輩はたぶんスキル剛腕を使っているのだろうが…どんどんと顔が赤くなってきている。
「200kgが今までの最大値だったんだろうけど、自分の限界を超えてみようぜ! はい」
ゴッと音を立ててまたどこからともなく同じくらいの大きさの岩が積み重なった。これで合計3つの岩がアキラ先輩の上で積み重なっている。
アキラ先輩の顔が…今まで見た事のない顔をしていた。顔に浮き上がった血管もブチきれそうなぐらいだ。必死を通り越して顔面が限界突破している…。
そして少年が指をパチンと鳴らした。
「ぐっ、がっ、ぎ、ぎざま…や、やめ…ぐがががが」
「最後に可哀想だから体の拘束を解いてあげたぞ。これで君は自由だ。自由に動いていいんだぞ? ほれほれ。」
少年はニヤニヤして嬉しそうだった。
アキラ先輩は頭上に300kgの岩を支えるので精一杯で動く事もままならないようだ。
「ゆ、ゆるじでぐだざい…だずげでぐだざい…。」
アキラ先輩はありとあらゆる穴から水分を放出しながら少年に許しを乞いた。
少年は今にも崩れて岩の下敷きになりそうなアキラ先輩に近づき髪の毛をガッとつかみ顔を上げさせる。目の前には必死な形相の汚れに汚れまくったアキラ先輩の目を見つめる。
見つめあったまましばらくの沈黙の後…
「だめええええええええええ! くひゃひゃひゃひゃひゃ」
…つい先ほど僕がアキラ先輩にやられた絶望を今度はアキラ先輩自信が少年によって味わらせられたようだ。
アキラ先輩は自分が助からない事を悟り、体全体の力尽きて上に積んである岩が大きな音を立てて崩れ落ちた。
ズズズ〜ン。
大きな岩が積み重なった地面からアキラ先輩の血が流れ出ていた。
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