第3話 コウジとハヤト

「い、痛い…な、なんだこれは…。」

 見ると右の太もも裏がざっくり切られている。そんなに深い傷ではないが血が流れているのを見て動揺してしまった。辺りを見回しても魔物はいないのに…どこからの攻撃だったのだろうか。とにかく血を止めなくては。


 プチパニックを起こし気が動転した僕の視界に、ふとニタニタと笑うハヤトさんとコウジさんが目に入った。


 そういえばコウジさんのスキルは…斬撃。レベルが高く無いから一撃で切り落とすような威力はないが、皮膚を切り裂くぐらいの威力ならある。チームプレイでコウジさんの斬撃スキルで魔物の足止めをして、そこにハヤトさんが剣技スキルで止めを刺すという作戦で今まで戦ってきた。


 この傷は…まさか…嫌な予感で歪む僕の顔を見て、彼らの嗜虐心が満たされたのか…醜い笑みを浮かべながらゆっくりと近づいて来た。


 コウジさんが今度は僕の目の前で無言で斬撃のスキルを飛ばしてきた。


 「ぎゃあああ」

 まっすぐに飛んできた斬撃は僕のかばった腕を切り裂いて血が出てきた。浅いとはいえ結構切れているので痛い。


 「な、なんで…コウジさんが僕を攻撃…ぎゃっ」

 言い終わる前にハヤトさんが僕の足の甲めがけて剣を突き刺す。間一髪避けるも足の甲のフチにに剣が当たり肉を切られた。


 「ど、どうしてハヤトさんもコウジさんも。僕を…アっ、アキラ先輩〜た、助けてくださ〜い。」

 僕は無我夢中で二人の後ろにいるアキラ先輩に大声で助けを求めた。アキラ先輩ならこの2人を止めて僕を助けてくれるはずだ。僕をチームに入れてくれて、普段は厳しいながらもずっと気にかけてくれた。見た目は怖いけど心根が優しいのは僕が小さい時から変わっていない事はチームに入って半年一緒に過ごして分かっているのだ。


 だからきっと僕を助けてくれる。そしてこの2人から僕を守ってくれる。そんな期待を込めてアキラ先輩にすがる。


 「おいおい、ハヤト! コウジ! 何でツヨシを攻撃するんだよ! バカかお前らは!」


 ほらね、やっぱりアキラ先輩は…


 「ツヨシがいつもの仕事を終えて帰ってきてから殺す約束だっただろう。」


 僕のことを守ってくれ…る?


 「みろよ、お前らが攻撃したせいでキャリーバックの中身が出ちまってるだろう! ツヨシを殺したら俺たちが捨てにいかなきゃいけねーんだぞ! 面倒くせえだろうがよ。」


 さっき攻撃された衝撃で投げ出されたキャリーバックが壊れ、中身が散らばってしまっていた。その中身とは…


 「いい女だったのに脳筋バカのハヤトがすぐにカッとなって首を絞めて殺しちまうもんだからよー!」

 「うっせー、元はと言えばお前がこの女を何回も殴って壊しちまったから、親切に俺が止めを刺してやったんだろうがよ! むしろ俺に感謝しろよ!」


 バラバラに刻まれた遺体だった。


 飛び出た遺体の前でハヤトさんとコウジさんが言い合いを続けている。今度は僕が彼女たちと同じように殺されそうになっているというのに…どこか現実味のない他人事のような感じでそのやりとりをぼーっと見つめた。


 「まぁこうなったら死体はその辺の草むらにでも捨てておけよな。1日もすればダンジョンに吸収されて跡形もなくなるんだからよ。その次は…こいつも始末しなきゃいけないしな。」

 アキラ先輩がそう言って僕を笑いながら見た。そ、そんな…信じられない。あの優しかったアキラ先輩が僕を…


 「ど、どうして…。どうして僕を殺すんですか? アキラ先輩。」

 「ん?」


 「このチームに入れてもらってから僕は、毎日欠かさず事務所に顔を出して雑務をこなしていたじゃないですか! お金も一銭ももらわずに半年間いいなりで…。それに、それにダンジョンに死体を捨てに行くために解体や、死体処理とかも嫌な顔ひとつせずにしてきたじゃないですか…うううっ。それなのに…それなのに何で僕を殺すんですか?」

 そんな僕の必死の訴えもアキラ先輩は、こいつ何必死こいているんだといわんばかりの嘲笑を僕に向けた。


 「だってお前のスキル“水魔法”じゃん。そんな高レベルでしか使えないようなスキルを授かるような奴をこのまま育てるよりは、また従順な新しい奴隷を入れたほうが効率いいじゃん。リセマラだよ、リセマラ。くははははははははは」

 そう言い切ったアキラ先輩の目は何の感情もこもっていない、無機質な…人間ではない物を見るような目で僕を見下していた。


 「アキラ、もういいだろう。早く殺そうぜ!っていうか俺に殺させてくれよ。久しぶりに狩りがしたくなったからいいだろう…へへへ。」

 「まぁ、俺は今回コウジに譲ってやってもいいぜ。後で牛丼おごれよな! みそ汁付でな。」

 まるで物の貸し借りのようなハヤトさんとコウジさんの気軽な会話を聞いて、これから僕は殺されるんだという現実が受け入れられなかった。本当に…本当に僕は殺されるの?

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