物価は文化だ! ~召喚フレンズの魔の手

いすみ 静江

召喚フレンズの魔の手

「物価は文化だ!」


 風邪で倒れながらも駒子こまこは叫んだ。


 ◇◇◇


 それは、テレビで肉食の獣、○○が出ていたとき。

 そんなことあり得ない。

 本来は大人しく草食な筈だ。


たちばなぽん。あの獣、前世の前はメ○○ルだよね?」


 隣で見ていた夫に、確実だの決め顔で攻める。

 この人が視聴予約までして見たかった番組、『召喚しょうかんフレンズ』だからだ。

 まさか私だって、召喚するんだから普通の獣は登場しないと思うがね。


「俺の苗字読み禁止」


 さり気なく、まだこそばゆい新婚さんアピールしてみた。

 心の声では、失敗だと思っているけれども。

 まあ、いいか。

 共働きでお互いに夜しか会えないし。


「駒子、あの召喚獣の前世は『あい勇気ゆうき使者ししゃしおようかん』だよ」

秋都あきとくん、その前の前の姿よ。ビフテキをすすめるステキ美女に決まっているわ」

「それは、昭和だからだよね」


 私はここで気が付いた。


「橘家は東北とうほくで牛食べるよね? 高くないよね?」

「馬も食べるし、熊も食べるよ」


 納得溜め息一号です。

 はい、ふうー。


「豚しかないんだわ。うちの地方は。深水ふかみの実家は特にそう」


 キッチン嫌いの母が前掛けをする。

 材料は通販で買っており、献立は食べたいものを言う。

 娘にだ。

 思えば、中学生頃から学生でいる間、お弁当とお夕食はほぼ私だったな。


「よく、母にこれ焼いて切っといてと言われたわ。ステーキだよと、豚さんブヒ!」


 母は愚痴っぽい方だったけれども、楽しいこともあったのだろう。

 楽ができて美味しい食事の話は、聞いていても心地よかった。


「以前、牛肉の安い所に引っ越したとき、それは喜んで食べたらしいよ。今は、豚鶏オンリー」

「成程、偶々俺んちはマタギがいるしね」

「橘のご実家では色々ご馳走になりましたっと」


 要するにネックは一つだと思う。


「これも物価の問題だよ」


 そうこうしている内に『召喚フレンズ』のエンディングが流れる。

 誰に向かってか、叫んでみたりしてね。


「物価は、文化だ!」


 その後、橘ぽん呼びして、いちゃこらした。

 よい子はおやすみなさいですよ。


              【了】

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