第五十三話 華澄の相手って、俺だけど
あの中庭ライブは、大盛況、拍手喝采で終わった。
そして、バンド名が決まった日に作ったSNSの『黒猫』アカウントにそのライブ映像をアップすると、見る見るうちに再生回数が増え、フォロワー数も増え、ややバズり、という状態になった。
それに伴い、リンク先に設定していたメンバー個々のアカウントのフォロワー数も上昇し、ライブハウスからのオファーも後を絶たなかった。
そんな、夏休み明け。
一躍有名人になった華澄だが、今はとても逃げたい。
「華澄ちゃんあの人とどうなったの??」
「まだ片想い??」
「それとも夏のいい思い出作ったりした??」
「あー、えー、えーっと……」
只今、友人たちによる尋問中な始業式前の朝の時間である。
別に隠していたわけじゃないのだが、あんまり自分から恋のハナシをするのは苦手だし、それに、相手が女子に人気なあの人だから周りには言いにくい。
しかし、神様は残酷で。
「華澄ぃ~」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「(ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!)」
女子の悲鳴と共に飄々とやってきたのは、華澄の想い人で恋人の荒木鉄郎。
なんで今来る!? と華澄は頭を抱えた。
「……何しに来たの」
「おいおい、恋人様が来てやったのにあんまりだなぁ?」
「わ!! バカ!!」
そして、その言葉で友人たちの、もとい、クラスメイトの目の色が変わる。
「「「華澄ちゃん?!」」」
「あー、えっと……、夏休みの軽音部合宿時からお付き合いしてます……」
その言葉を聞いて、クラスメイトは阿鼻叫喚。
なんせ人気者同士のカップルだ。
華澄にも、鉄郎にも恋心を抱いている生徒は少なくない。
友人たちにはひたすらお祝いの言葉を言われてから、まだ隣で満足そうな笑顔で立っている恋人を恨めしそうに睨みつける。
「で、何か用なの??」
「ん?? ただ男子に牽制しに来ただけ」
「死ね」
「酷い彼女だな。二年でもうるせぇ男子いたから黙らせて来たとこだわ」
ということは、少なくとも一、二年生には知れ渡ってしまったということで。
「今日が私の命日か」
「なんでだよ。まぁ、俺がなにがあっても守ってやるから。……俺の歌姫様?」
「!!」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
ご機嫌なのか、鉄郎は華澄に顔を近づけると、そのまま頬に口づけを落としていった。
恋愛初心者の華澄はもう心臓が持たない。
「まぁ、華澄の恋人って俺だから、勝てると思う奴だけ来いよ。じゃあな」
一年男子は思った。
勝てるわけがないだろう、と。
そうして、数名の恋と夢を粉砕して、鉄郎は飄々と去っていった。
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