第五十話 合宿の夜はやっぱり恋バナ!!
双子家のリビングのローテーブルを囲んで、鉄郎、華澄、匠海、遥、元貴、朱香の順で座る。
明らかに嫌がるかと思った鉄郎は、そんなこともなく大人しく座っているし、逆に、匠海と遥は眉間に皺を寄せている。
「ねぇ、朱香ちゃん、キミ昼間に散々俺たちと恋バナしたよね??」
「え~?? あれはあれ!! これはこれ!!」
この幼馴染に振り回されるのはいつものことだ。
でも、憎めないんだよな、と遥はため息を吐く。
「じゃあ、まずは今の恋人の好きなとこを話し合おうよ!! もとくんから!!」
「朱香ちゃんの好きなとこは~、可愛くて~、ふわふわで~、お茶目なとこ!!」
「きゃ~!! 朱香はもとくんの、明るくて、お茶目で、でも、優しいとこが好き~!!」
キャッキャウフフと、最早、バカップルの独壇場。
いちゃつきたいなら二人きりの時にしろと言いたくなる兄たち。
「お兄ちゃんは、華澄さんの何処が好き??」
「あー……、気の強いとことか、でも、強いように見えて弱いから守りたくなるトコとか」
「愛されてるな、華澄」
「黙れ、匠海」
華澄はさらっとデレた鉄郎の言葉に真っ赤になり顔を覆う。
「じゃあ、華澄さんは?? お兄ちゃんの何処が好き??」
「何処だろ?? 顔??」
「顔て」
「いや、ほぼ一目ぼれだったから……。一番はそれなんだと思う。でも、てつくんを知っていくうちに、過去の傷とか癒してあげたくなったなぁ」
華澄はそういうと、「あれ?? 質問の答えになってない??」と焦りだし、鉄郎の、頼りになるところと逞しいところを追加で挙げた。
「お兄ちゃん、華澄さんに出逢えてよかったねぇ」
「はいはい、そりゃドーモ。次、匠海な」
朱香が茶化してくるのを飄々と躱し、匠海にバトンを渡す鉄郎。
匠海は、一瞬考えて愛しの遥の好きなところを話し出す。
「オレも華澄と一緒で一目ぼれだったから一番は雰囲気とか顔なんだと思うけど、ピアノ弾いてる時の横顔とか、男にしては細い指とか、実は着やせするタイプで脱いだら滅茶苦茶逞しいとことか、笑った時の優しい顔とか、後は……」
「ストップ、匠海、もうやめて、俺が死ぬ」
すらすらと好きなところを暴露していく匠海に、遥が羞恥で爆発した。ローテーブルに突っ伏してしまった。
「まだあるけど」
「もういい!!」
「って言っても、次、はるちゃんだよ??」
「俺を殺す気??」
羞恥で死にそうな遥に追い打ちをかけるように順番が巡ってくる。
そんな遥に、周りの五人はニヤニヤと笑っているが、遥は突っ伏しているのでそれに気づかない。
「ほら、遥、言ってやれよ」
「五月蠅い馬鹿てつ。……笑った顔とか、たまにワンコみたいな顔するとことか、ちょっと強引なとことか……」
「お前、犬好きだもんな」
「ねぇねぇねぇ!!強引ってどんな時?!」
鉄郎に急かされて言ってみたはいいけど、結局荒木兄妹に煽られてもう逃げ出したい遥だった。
「お前ら兄妹なんて嫌いだ」
「朱香はお兄ちゃんなんかより遥さんが大好き~!!」
「なんで俺は貶されたんだ」
そんなやり取りをして、ふと、鉄郎が優しく微笑む。
そして、この中では遥と華澄しか知らないあの事を暴露する。
「俺はお前の事好きだったよ。なんせ初恋の相手だからな」
「「「?!」」」
「やめろ、なんでこんなとこで暴露したんだよ」
「てつくんも意地悪だねぇ」
華澄も知っている風なので遥は華澄に知っていたのか、と聞いた。
「あたしは気づいたの。てつくんを見てたら、なんだか、そんな気がして」
だったら、叶わないなら、自分にしたらいいのにって思った、だから猛アプローチしたと華澄は穏やかに笑う。
「てっちゃん、ってどっちなの??」
「あ?? なにが??」
「なんだっけ、あれ……」
「性的嗜好??」
「そうそれ!!」
鉄郎は少し考える。
「バイセクシャル、でもないな。男を好きになったのは遥だけだったし、っていうか、今までで本気なの華澄だけだわ。遥は憧れ、みたいなんだったんだと思う」
「でも、お兄ちゃん、なんで急にそんなこと暴露しようと思ったの??」
また少し考える。
そして、穏やかな笑顔で答えた。
「大切な女ができたから、初恋はもう過去にしていいんじゃねぇかって思ったから」
結局、匠海だけが腑に落ちないという顔をしていた。
というか、ヤキモチを妬いていたんだと思う。
その後、匠海の部屋で二人きりになった恋人たち。
「……はるか」
「ふふ、なぁに??」
部屋に入るなり、匠海が遥を抱きしめる。
そんな愛おしい恋人の背中に腕を回して抱きしめ返す遥。
「ホントにてつさんとは何もないの??」
「何もないよ。ちょっと前に告白みたいなのはされたけど、ってか、その時、押し倒されたけど、」
「はぁ?! 押し倒された?!」
「あ、いや、あの……」
肩をがっちり掴んで詰め寄ってくる匠海の勢いに困惑する遥。
それが匠海の不安を更に煽る。
「……押し倒されて、ナニされたの」
「何もされてないよ。ただ泣かれただけ」
「は?? 泣かれた??」
あの先輩が泣くなんて、あり得ない事だと思った。
でも、確かにあの時鉄郎は泣いた。
感情に対して、現実が上手くいかない事に、悔しくなったのだ。
悔しくて、やるせなくて、幼馴染の腕の中で泣く事しかできなかった。
「荒木鉄郎って男を、匠海はどう思う??」
「は? え、まぁ、いい先輩だと思うし、男から見ても憧れる男、って感じだけど……」
遥は、ふふ、と笑って、愛しい男の胸に擦り寄る。
「俺たちから見たてつって、完璧に見えるけど、でも、実は恋を知らないただの傷ついたガキなんだよ。完璧なんてほど遠い、ただの子供」
そして、遥は、幼馴染の恋人になった後輩によく似た自分の男に優しく口づけをする。
「……てつは、『あの時』、初恋敗れたただの子供だった。キミに、俺を盗られて、悔しくて泣くなんてガキみたいなことをした。でも、たぶん、てつは、ホントの意味で今大人に近づいたんだと思う」
匠海は、その語りを聞いても、まだ腑に落ちない顔をしている。
彼は不安なのだ。大切な、大好きな遥が、鉄郎に盗られてしまうのではと。
「……もう。仕方ないな。こっち」
「はるか、」
「寝て?? 今日は俺がしてあげる」
ちゃんと、分かってね。俺がどれだけキミを好きか。と遥は匠海に馬乗りになって妖艶に囁いた。
「……あ」
「ん?? どうした」
一方、隣の部屋。
華澄がいきなり何かに気づいたように壁に耳を当てる。
「今日もお盛んだわ」
「マジかよ。あんだけ羞恥で死んでたのにか」
華澄の部屋では、部屋の主の華澄と、今晩も鉄郎が一緒に就寝しようとしていた。
一頻り壁に耳を当てて隣から漏れる声を聞いたが、飽きたのか、ベッドに仰向けで寝転がっていた鉄郎の隣にゴロリ、と横になる。
「どーした??」
「んーん。眠くなってきちゃったから」
「寝るか。よっ、と。ほら、腕枕してやるよ」
「ん、ありがと!」
大好きな彼に腕枕をされてご満悦な華澄。
鉄郎がそんな可愛い恋人の頭を撫でたり額にキスしたりしているうちに華澄はうとうと、と眠りだす。
「……てつく、ん」
「ん??」
「……あたしは、てつくんが……したくなったらで、……いいからね」
むにゃむにゃしながら、必死に鉄郎に語りかける華澄。
「……ああ、ありがとうな」
鉄郎はそんな恋人を抱きしめて、自分も夢の中に落ちていった。
華澄は、鉄郎が初めての女との過去との決別をしないと、そういうことはないと分かっていた。
でも、それでいい。プラトニックでもいい。
華澄は、ただただ鉄郎の隣にいたい。
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