第四十八話 夏合宿!! 五日目!! ②



「で、で、で、二人は彼氏とどこまでしたの?!」


「いきなりかい」


「ホント、キミは……」


 暴走ガールは、開始の号令をした次の瞬間には、鼻息荒く、これである。

 華澄は呆れてはいるが、自分はいやらしいことはしていないし、今後の参考にするか程度だが、合宿中もがっつりヤっていた遥なんかは、いたたまれない。


 行為自体は、犯罪や、その程度の『やってはいけないこと』ではないが、高校生にしては濃厚なところまでいってるし、ある意味『やってはいけないこと』だし、恥ずかしいしで、遥は此処から逃げ出したい。


「あたしは、昨日付き合いだしたし、特には」


「キスはしたよね~♡」


「はいはい、しました~!!」


 キスについてはもう見られていたし、いいのだが、この暴走ガールに添い寝の件を知られると不味いことになりそうだな、と、恐らく匠海経由でしっているだろう遥が余計なことを言わないように祈ったが。


「添い寝は?? しなかったの??」


「~~~~~~!! しましたぁ!! (遥くんの馬鹿ぁ!!)」


 少し天然なのか、遥はさらりと何食わぬ顔で聞いてくる。

 暴走ガールの顔色が変わった。


「え、え、え、添い寝?! お兄ちゃんと添い寝したの?! ていうか、なんで遥さんが知ってるの??」


 興奮気味の暴走ガール、朱香は前のめりになる。

 突っ込まれたくなかったことに、突っ込まれ、遥を恨んだ。

 きっ、っと遥を睨むと、遥は「不味かったか!!」という顔をしたが、時すでに遅し。


 華澄は仕返しを決意した。の前に、朱香を落ち着かせよう。

 まあ、添い寝以外はしていな……、いや、イチャイチャはしたが。


「……あたし、楽しいことの後に悪夢見るんだけど、誰かと一緒に寝たらそれが出ないのね? で、匠海はそれを知ってるから、てつくんに言ったみたいで」


「そっか……。というか、お兄ちゃん、本命相手だとめちゃくちゃ甘々だね??」


「セフレ相手じゃそうじゃなかったの??」


 当時の鉄郎を知っている朱香と遥は顔を見合わせる。


「「暴君」」


「え?? よくモテたね??」


「なんか、女の子の間で、てつに酷くされたいとか、ワンチャン優しくしてくれないかなってなんか流行ったみたいだよ」


「わお」


 華澄は、ワンナイトする人の感覚はよくわからないのだが、酷くされてもいいってくらい鉄郎が魅力的なのはよくわかる。


「あの頃のお兄ちゃんは荒れてたからね。朱香と遥さんが辞めなきゃ縁切るって言ったら頭冷やしたみたいだけど」


「それだけ、てつくんの中の二人が大切だってことだね」


 荒れてた鉄郎が丸くなったのは、大切な妹と大切な親友が自分と縁を切ると脅してきたからだった。

 鉄郎にとって、朱香は守るべき可愛い存在であり、遥は尊敬すべき大親友。

 たとえ、遥への初恋が実らなくても、それは変わらない。


 でも、そんな二人は、華澄を見て、穏やかに微笑む。


「でも、てつを本当の意味で救ったのは華澄ちゃんかな」


「そうだね。お兄ちゃんを救ってくれて、ありがとうね、華澄さん」


「え、え、え?」


 そんな二人に、感謝の言葉を言われ、ついていけない華澄。

 しかし、朱香と遥は、本当に華澄に感謝していた。

 丸くなったとはいえ、人生がつまらなそうな鉄郎。

 初恋は叶わず、初めての相手や、その他大勢の女の子とのことで、トラウマを抱え、生き苦しそうだった。


 そんな鉄郎が、今、幸せそうに笑っている。


 華澄と恋をしたからだった。


「お兄ちゃん、たぶん華澄さんには優しいと思うから、ずっと傍にいてあげてね」


「うん。てつくんがあたしに飽きるまで傍にいる」


「てつが華澄ちゃんに飽きるなんてないと思うけどね」


 そんな話をして、一区切り、と思ったのか、朱香のターゲットは遥に変わる。


「で、で、で!? 遥さんは?!」


「合宿中も毎日お熱いよね~」


「か、華澄ちゃん……!!」


 完全に仕返しをされる遥。

 顔を真っ赤にしている遥を見て、朱香は事を察したのか、にこぉ!! と笑い、鼻息を荒くする。


「え、え、え、したの?! ていうか、毎晩してるの?!」


「逃げたい……」


「遥くん、それ肯定だからね」


 リビングのローテーブルに顔を伏せて、羞恥に耐える遥。

 しかし、暴走ガールはそれを許さない。


「男同士って、お尻使うって、ホント?!」


「……ノーコメント」


「はい、肯定だね、遥くん」


 さらに、遥は朱香に、男同士でも気持ちいのか、と聞かれ、またノーコメントと答え、華澄にニヤニヤされながら、また肯定だね、と言われてしまう。


「あんなに声出してるもんね~」


「華澄ちゃん、さっきの件怒ってる??」


「ちょっと腹立った」


「oh……」


 ご立腹の華澄に必要以上に仕返しをされ、女の子って怖い、と思う遥だった。


「そっか~、やっぱ、エッチってそんな声出ちゃうんだね!」


「え、朱香ちゃんまだなの?」


「遥さんがマウント取る」


「いや、マウントじゃなくて、二人の様子見てたらもう済かと」


 遥のその言葉を聞いて、朱香の顔色が曇る。

 そして、膝を抱え、寂しそうに笑いながら、ぽつり、と呟く。


「おっぱふとか、ちょっと胸触ったりとかはするんだけどね。その先にはなかなか」


「元貴くんのことだからとっくに襲ってるもんだと」


「もとくん、そんな軽いイメージなの??」


「軽いっていうか、あいつはただのおっきいおっぱい好きのエロ魔人だから」


 小さい胸の華澄には、きっぱり好みじゃないと初対面で言い放った元貴。

 生粋の巨乳好きなエロ魔人である。


「男って、てつがいい例だけど、好きじゃなくてもセックスなんてできるから」


「そうだよ。好みのおっきいおっぱいの可愛い子が目の前ででっかいおっぱいちらつかせてるのにしないのは、我慢してるんじゃない??」


「そうかなぁ??」


 朱香は、お姉さんとお兄さんに励まされ、少し明るい顔になる。


「朱香ちゃんは処女なの??」


「え、そうだけど、遥さんがセクハラする~!!」


「いや、いきなりそんなこと聞いた俺も悪いけど、キミ、散々俺たちにセクハラ発言した後だよね?」


「てへっ」


 朱香は舌を出し、可愛い子ぶる。


「じゃあ、元貴くんはそういうのを大切に思ってるタイプかもね」


「お姉さんいるし、そういう言いつけなのこもしれないし」


「じゃあ、もうちょっと待ってみる」


 朱香が「してほしい」と懇願すれば、あるいは元貴は応えるかもしれないが、それはなんだか、癪だった。

 朱香は、元貴から求めてほしいのだ。


 そんな恋バナをしてから、それぞれの役割である、作詞、作曲をする華澄と遥を、冗談を交えながら、朱香がサポートする。


 そして、新曲を詰めることができた。


 それから三人は近くのベーカリーショップに向かい昼食を食べ、少し買い物をしたのだが、遥は男なのに、女の子の三人組と勘違いした男たち三組にナンパされ、キレた遥が、「いじゃんいいじゃん遊ぼうよ!!」と触りに来た男の手を潰し、撃退して、事なきを得たのだった。

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