第四十七話 夏合宿!! 五日目!! ①


 あれから、鉄郎もリビングに着いてきて、しかし、手伝いもせず、後ろから華澄に抱き着いて、くっついていたところに匠海と遥がやってくる。


「あ……」


「……」


「「……お邪魔しました」」


 いくら大親友兼幼馴染と後輩といっても、不機嫌な鉄郎のあの切れ長の鋭い瞳で睨まれたらたまったもんじゃない。

 恋人たちは、すすす……とリビングから出ていこうとする。


「待って待って!! 戻ってきていいよ!!」


 というか、正直、至近距離に恋人がいることに慣れない華澄は、今は、二人きりがいいという感情より、早く誰かに来てほしいという感情のほうが強かった。

 心臓が持たない。


「ほっとけよ」


「ほっとけよ、って、てつくん!! 匂い嗅がないで!!」


「気にすんな」


「気にする!!」


 はっきり言って、遥はとても驚いている。

 長い間、鉄郎を友人として見てきたが、鉄郎が朱香や姉以外の女性に対して此処まで友好的で、べったべたに甘えるということをしていた記憶が全くない。

 まあ、朱香や姉にも甘えるなんてことはしない男だ。

 それどころか、自ら嫌われるように、わざと暴君的な言動をしていたと思うのだが。


 これが、本命とセフレの差かぁ……と感心する。


「なんだよ、遥」


「いや、本命には甘えん坊のバブちゃんなんだと思っただけ。変わったねぇ」


 鉄郎は一瞬嫌な顔をして、それから幼馴染を鼻で笑う。


「お前は品行方正な優等生だったのに快楽堕ちしたか」


「はぁ?!」


「て、てててててつさん?!」


「言っとくけど、あんたたち、毎日毎日『聞こえてる』からね?」


 双子の部屋の壁は、薄くもないが、厚くもなくということで、『聞こえてる』といえば、まあ、『そういう』声なわけで。

 恋人たちは顔を真っ赤にしてから、床に倒れこむ。


「……死にたい」


「オレも……一緒に死のっか……」


「そうだね……」


 危うく、恋人たちが羞恥から、心中の約束をしだして、頭を抱える華澄。

 鉄郎はお構いなしに華澄の頭の香りを吸っている。変態である。


「ちゃっら~ん!! おっはよ~!!」


「ちゃっら~ん!! って、あれ? 遥さんと匠海さんどうしたの??」


 そこに能天気バカップルが合流。カオスである。


「心中したいんだってよ」


「「心中?!」」


「待って待って。合ってるけど語弊がある」


 鉄郎が適当なことを言うからバカップルが慌てだして、また華澄が頭を抱えた。


「二人とも~、死んじゃやだよ~!!」


「そうだよぉ~。前途多難な恋だけど朱香たちも支えるからさぁ~!!」


 恋人たちの身体を揺すりながらそんな泣き言を言うバカップル。

 恋人たちはそんな場合ではない。


「……キミたちは馬鹿でいいね……」


「……この能天気たちめ……」


「「ひどい!! 慰めたのに!!」」


 バカップルの言う通り、理不尽な扱いである。


「は!! 待って?」


「もとくん?? どうしたの??」


 元貴が未だ羞恥で起き上がれない恋人たちの隣に寝転ぶ。


「冷たくて、気持ちいい~」


「なるほど!! じゃあ、朱香も~!!」


「辞めろ馬鹿」


「マジで馬鹿」


「「ひどい~!!」」


 まるでコント番組のような賑やかな朝である。


 しかし、尊い。


 そんなある一日が始まる。


 朝から馬鹿騒ぎをして、笑いあって、華澄が作った朝食を食べる。

 朝食を食べて少しして、遥以外の男子三人が出かける支度をする。三人共バイトだ。


 女子たちと、女側なお兄さんは、彼氏たちがバイトに出かけるのを見送りに玄関に向かう。


「もとくん、いってらっしゃいのちゅ~♡」


「ちゅ~♡」


 バカップルは、人目もはばからずいってらっしゃいの軽いキスをする。


「じゃあ、行ってくるな」


「うん、いってらっしゃい」


 恋人たちは、人目もはばからずいってらっしゃいのハグをする。


 初々しいカップルは、そんな仲間たちに、苦笑するが、自分たちも、イチャつきたい。


「……華澄」


「うん??」


「行ってくる」


「!!」


 ちゅ、っと華澄の頬に、鉄郎の唇が触れる。

 顔を真っ赤にして狼狽える華澄と、満足げな鉄郎。


「言うことは??」


「……行って、らっしゃい」


「おう」


 鉄郎は、匠海と元貴に冷やかされながら、バイトへと向かった。


 パタン、と閉じる玄関の扉。

 と、同時に、華澄はその場にへなへな、と座り込む。


「……かっこ、よすぎない??」


「華澄さん、ほっぺちゅーだけで腰抜かしたの??」


「ふふ、初々しいね」


「うるさい!!」


 華澄はからかわれながらやっとも思いで立ち上がり、朱香と遥と共にフラフラとリビングへ。

 三人で朝食の後片付けをワイワイ言いながらして、華澄はギターと作詞ノートをリビングに持ってきて作詞を、遥は五線譜を持ってきて、ピアノの前に座り、作曲をしようとした。


 しかし、恋する暴走ガール、朱香はそれを許さない。


「え~!! 折角だから恋バナしよーよぉ!!」


「「え~……」」


 それに対して、華澄と遥はあんまりいい反応はしない。

 華澄はほかの二人の恋バナは聞きたいが、自分のは恥ずかしいし、遥は根掘り葉掘り色々聞かれそうで怖いからだ。


「折角女同士なんだからさぁ」


「じゃあ、二人で話しててよ。俺はヘッドホンして聞かないようにするから」


 そういって、ヘッドホンをしようとした遥だが、暴走ガールはそれを許さない。


「遥さんも『女側』でしょ??」


 他の男子が見たら胸をときめかしてしまうような可愛らしい微笑の朱香だが、幼馴染の遥には悪魔の微笑に思えた。


「……キミって、本当にてつの妹だね」


「え、どういう意味よ!」


「性格悪いって意味」


「ひっど!!」


 そんな幼馴染たちの会話を聞きながら、「仲いいなぁ」なんて華澄は思う。

 こんな軽口は、信頼していなければ、成り立たない。


「ささ、遥くん、こっち来て」


「いつの間にか華澄ちゃんも乗り気になってるし」


「まあまあ!! どきっ♡ 女(側)だらけの恋バナ大会!! ポロリもあるよ♡ を始めましょ~!!」


 朱香の号令か合図に、禁断の恋バナ大会が、今始まる!!

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