第5話
扉の向こうはいつかの夢で見たような気もする風景が広がっていた。
大きな建物の中のようなのに、上には空が広がっている。なんとなく写真やテレビで見た外国の神殿を思わせた。そして誰もいない。これはきっといつもの夢なんだろう。
一歩足を踏み出した時「チリン」と音がした。自分の左手にブレスレット···いやこれはフォルの首輪だ。それが左手にきっちりと巻き付いている。
どうしてこれが私の手に?こんなことは初めてだった。確かに最初に私の部屋のドアを開ける時にフォルはいた。あの青い瞳で私をじっと見つめていた。この世界のどこかにいるのだろうか。どこかで蹲って私を待っているのだろうか。
「フォル!」大声で呼んでみたが、私の声のこだまが返ってくるだけだった。
そういえばここに入る時に、知らない声が聞こえた。候補とかナンバー3とか。
何の候補なのだろう。ナンバー3ということは、ナンバー1や2がいるという事だ。
この世界は今まで見ていた夢とは違うのだろうか。ここで私の探す誰かは見つかるのだろうか。
ひとまず私はフォルを探すためにも、この世界に足を進めた。
周辺を見て回ったが、相変わらず誰もいない。
神殿を思わせる建物は大理石だろうか、ひんやりと静かに聳え立っている。整然と建物が続いているのに、誰も居ないせいだろうか、どこか不安定というのだろうか、歪な感覚を覚える。
建物を抜けると美しい庭園が現れた。中央には澄んだ池があり、淡いピンクの蓮が美しく咲いている。
魚などは居なそうだと、水面を覗き込んで私は息を飲んだ。水に映ったのは知っている私の顔ではなかった。瞳は青く、髪は白銀だ。おとぎ話に出てくる妖精が頭に浮かぶ。周辺の様子ばかり見ていて、自分の変化に気づかなかったが白銀の長い髪は金のリングで纏められている。
そして何よりもここではこの姿が当たり前だと、心の何処納得している自分がいた。
そう私は候補なのだ。確かに『何か』の候補として選ばれたのだ。それだけを思い出していた。
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