【父・白鳥 一也】


 ——自分に、何らかの罰を与えてほしかった。


 愛娘である霜乃華を守れなかった代償は大きい。しかし周りは自分を咎めも罵りもしなかった。

 ——もっと、自分に失望してくれていい。なんなら、ありったっけの大声で罵倒してくれたっていい。

 そう考えていた。

「謝罪の押し売りなんかをしているヒマがあったなら、そのちゃんのためになることをしてほしいわね……?」

 情けない、と容赦のない叱責を飛ばした妻・舞依。なぜか疑問形で終わったその言葉に、一也は震え上がった。その時の彼女は目力が半端なく、『霜乃華のためにならない行為をするな』と暗に告げていた。

「本当に、そうだよね」

 娘を溺愛して堪らない親バカは、娘のためなら頑張れるのだ。

「じゃあまずは、霜乃華をもっと医療レベルの高い病院へ移動してもらわないと。……南大学医学部附属病院みなみだいがくいがくぶふぞくびょういん……ならいいかな」

 普段、休日は二階の書斎に籠ってネット情報を漁っている一也。ゆえに、そのリサーチ能力は舞依に認められているほど優れていた。

「舞依さん、ちょっと石亀病院に連絡してくれる?」

「え? いいけれど、なんでまたそんなこと」

「霜乃華をもっといい病院に入れたくてね」

「…………確かにそうね」


 ——そこからはあっという間だった。

 石亀病院にはすぐさま話が通り、南大学医学部附属病院の紹介状を受け取る。

『ちがうびょういん ちりょう いどう』

「………移動? なんでそのかが別のところ行かなきゃなんないの⁉」

 相変わらず情緒不安定で感情の起伏が激しい。

「やだやだ……やだよぉ」

「そのちゃん大丈夫よ。淳先生も、石亀病院の先生達が入れ替わるのと同時に来てくれるのですって」

『あつし いっしょ くる』

 全力で暴れる霜乃華を羽交い絞めにして、無理矢理車に乗せる。

 車内でもなお暴れる霜乃華だったが、暫くすると力尽き眠った。


 何時間にもなる車移動を経て、ついに到着した南大学医学部附属病院。略して、南大学。

 そこは今まで見てきた病院の中でもトップクラスに大きく、清潔感溢れる建物だった。真っ白い壁が、見る者を圧倒させる。

「我が最新技術を駆使して、きっと霜乃華ちゃんを救って見せますよ」

 微笑んだ若い医師の、その言葉に縋るしか道はなかった。



 ——これが本当に霜乃華のためになったと思いたい。

 ——医療レベルの高い南大学は、最先端テクノロジーを多く抱えているからきっと大丈夫だ。

 ——霜乃華には、早く新しい生活に慣れて貰わないと……。


 一也の頭の中は、混乱しながらもずっと思考を続けている。

「もっと、霜乃華のためになることをしなくちゃね」

 霜乃華を含めた白鳥一家が抱えるストレスが、大幅に溜まっていることに本人達だけが気付けていない。

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