【姉・白鳥 穂乃華】

 ——先生から耳打ちされた内容を、初めは鼻で笑った。だけれどなぜだか上手く笑い飛ばせず、穂乃華は学校を早退し足早に病室へ向かう。

「ねえおっかあ、霜乃華が事故ったってほんと——、?」

 そこにはいつも通りの間抜け面で、ベッドに身を起こした妹がいる。

「本当よ。事故に巻き込まれたらしいわ……。四重苦とでも言えばいいのかしらね……」

 疲労の見える母の声に、穂乃華はごくりと唾を飲んだ。『四重苦』——それなりの学力を持ち合わせる優等生であるがゆえに、なんとなくで意味を理解できた言葉だろう。通常は二重苦という風に使うのだが、この場合の正しい表現はないと言えた。

「ねーねー、ここどこー?」

「っなぁんだ、いつもの霜乃華じゃ——」

「まっくらー電気つけて~」

 吐きかけた言葉は、気の抜けた愚妹の声で搔き消される。

「霜乃華、今、真っ暗って言った?」

「電気どこ? こっちはカベかなぁ、床はふわふわ……お布団かぁ!」

 全く話が通じなかった。

 あの、打てば響くような返事はもう帰ってこない。歌さえ聞いてもらえない。

 その事実に、早くも穂乃華は辿り着いてしまった。


~数日後~


「………んぇ? ほのか? やっぱりおねーちゃんだった! そうだよねっ」

 やっと見つけた意思疎通の方法。

 霜乃華はこれまでにないほどはしゃぎ、まだまだもっと書いてとせがんだ。

「漣にぃ、私と代わって」

 まだ、こうしていたかった。けれど、他校より授業の難度が高い学校に通う穂乃華には、それ相当の課題や宿題が課されている。提出期限は絶対厳守、期限延長など論外だ。


 ——穂乃華エリートは、生まれて初めて優等生エリートであることを煩わしく思った。

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