第参章『美しいあの景色、』
——『そのちゃんの名前はね、霜の花っていう意味があるのよ』——
幾らか前、両親に聞いたことがあった。
『そのかのお名前、なんでそのかなの?』と。どんな子供でも、一度はそう聞くことがあるだろう。
『ふふ。そのちゃんの名前はね、〝霜の花〟っていう意味があるのよ。霜のお花が咲いた日に、そのちゃんが生まれてきたの』
ちなみにほのちゃんは稲の穂がある時期に生まれてきたからよ、と舞依は付け足した。
『しものはなってなぁに?』
『霜の花はね、とっても綺麗な冬のお花。凍った雪?みたいなものでできているのよ』
『見てみたぁい!』
純粋無垢な子供であればこそ、未知のものには惹かれてやまない。霜乃華も等しくそうだった。
『霜の花……フロストフラワーは、今日みたいにものすごーく寒い日にか咲かないの』
幸か不幸か、今現在の四季は
外では、現在進行形でさらさらとした粉雪が庭に舞い降りている。
『今日も寒いから、お外にあるかもしれないわね』
『ほんと?』
『ええ。見に行ってみる?』
『うん!』
真っ白なうさ耳コートを引っ掴んで、霧之華は外へ飛び出した。呼吸するごとに白い息が宙を漂っては消え、霜乃華はそれらを興味深そうに眺める。
幼子は探求心の塊だ。多かれ少なかれ、興味を抱いたものに関しては間違いなく衝動的な行動を起こす。
『はーやぁーくー』
『そのちゃん待って、お母さんの体力が追い付かない……。っはぁはぁ』
舞依を引き離すように全力疾走。何気に、子供の身の
白鳥邸の
『……あった』
氷結して氷柱が垂れる
〝霜乃華〟は、『
——
——わたしの、名前のゆらい。
鹿威しと手水鉢の周りには、ヤツデによく似た大きな葉の植物が所狭しと生えている。薄墨色の曇り空から差し込む太陽光の筋で、葉の端から垂れた幾つもの氷柱が虹色に光った。
それに伴ってキラキラと淡く輝く、
『おかーさん、きれーだねぇ』
『ふふふ。そのちゃん、そんなにお顔を近づけたら息で溶けちゃうわよ』
『えええー!』
驚きのあまり上げた声。そこに含まれた熱い吐息に、
『すぐ消えちゃうんだ……こんなにかわいいのに』
『すぐ溶けちゃうからこそ、儚い美しさがあるのよ。少しでも触ったら壊れちゃう、繊細な綺麗さじゃない?』
『……うん?』
疑問形で言葉を返した娘に、母は暫し苦笑。ふっと柔らかい視線を向け、小鳥を慈しむかのように霜乃華を見つめた。
『ちょっと難しかったかもね。ただ、そのちゃんの名前の由来はとっても素敵なものよって言いたかったの』
『そのかのお名前は世界一?』
『そうね、私にとって世界一』
その時霜乃華は、母がそっと呟いた言葉を
『——
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