第42話 誰も知らない
再び、舞台に立った俺は、王の手によって処刑台に立たされようとしていた。
時は日暮れ、メロスが約束した三日目の日没が近い。セリヌンティウスは縄をかけられ、いままさに、邪知暴虐の王の凶手が迫っていた。
処刑台は舞台の中でも一段高くなっていて、俺の立ち位置からは、舞台袖の赤根崎の様子が見えた。
あいつは、深い深呼吸をして、舞台に飛び出す。
人込みをかき分け、処刑台の足場に崩れ落ちる。呼吸は乱れ、足はがくがくと震えていた。
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ」
倒れ込んだ赤根崎は顔を上げて、ありったけの声で叫ぶ。
人込みの中から、メロスをたたえる声が上がった。王は驚きのあまり声も出ない様子で、群衆に賛同した刑吏は、俺の縄をほどく。俺は、赤根崎に駆け寄って、
「メロス!」
友の名前を叫ぶ。
「俺を殴れ。俺はお前に偉そうなことばかり言ったが、お前の悩みを本当の意味では何も分かってなかった。だから、俺を殴ってくれ」
俺のアドリブに、赤根崎が面食らう。だけど、赤根崎はすぐに続けた。
高い音が鳴って、頬に鋭い痛みが走った。
「セリヌンティウス、私も同じだ。君の真の苦悩を、私は知らない。君が私を殴ってくれなければ、口を利く資格もないのだ」
俺は、赤根崎の頬を音高く殴った。
+++
カーテンコールを終えたあと、伊織がそっと近付いてきて、花をくれた。
「生徒会から終劇のお祝いらしいよ。会長から君に渡すよう言われた」
ひとつ、聞いてもいい? と伊織が言う。俺は頷く。
「舞台で赤根崎くんと、何を話していたの?」
舞台の反対の方で、藤村と話をしている赤根崎の姿があった。赤根崎も藤村から花を受け取っている。
「伊織には話せないこと、かな」
俺の視線につられて、伊織が赤根崎たちに気付く。俺の顔と赤根崎を交互に見て、伊織は不安そうな顔をする。
「じゃあ、君の真の苦悩って……?」
「伊織のこと」
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