第41話 幕間2

「ねえ、見て。桐子とりんねが話してる」


 舞台袖の小窓から客席を覗き込んでいた伊織が、俺を呼んだ。


「あの二人、どんな話をするんだろうな」


「知りたい?」


 と伊織は言った。


+++


「藤村、ちゃんと舞台見えてる?」


 瑠璃垣が背の低い藤村に気をつかって、話しかける。二人の前には、身体の大きい一般来場者が座っていた。


 藤村は、大丈夫ですよ、と答えて、


「りんねちゃんこそ、端っこで見にくくないですか?」


 と尋ねる。瑠璃垣は首を振って、


「大丈夫、あたし、座高高いから」


 と言った。


 藤村はそれの何が面白かったのか、ふふふと笑みをこぼした。


「りんねちゃんは最近、何を読んでいますか?」


 当たり前のように、本の話題に変わる。


「……補習であんまり読めてない」


「む、それは残念ですね。ショートショートをお貸ししますよ?」


「あたし、藤村ほど読むの早くないから、いいよ」


「いえ、いつ返してくれても大丈夫ですから」


 本を貸す藤村は上機嫌な顔で、にこにこと笑っている。


「伊織ちゃん、あっちに行っちゃいましたね」


「……仕方ないよ、あいつの恋人なんだから」


「でも、私たちは伊織ちゃんの友達ですよ。文句を言う資格ぐらいあります」


 珍しく藤村は本気で怒っているみたいだった。


「伊織ちゃんを独り占めするなんて、藍田さんは悪い人ですね」


 あまりに真剣な言い方に、瑠璃垣はふいに笑ってしまう。


「そうだそうだ、あいつは悪い奴だよ」


 藤村はやわらかな笑みを浮かべていた。

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