第26話 昨日の友は今日の敵

 放課後、瑠璃垣を探していると、クラス委員の葉山から文化祭当日のシフト表を渡された。


「呼び止めて、ごめん。藍田くん、私と同じシフトになってるから」


 葉山は俺と目を合わせないようにしつつ、淡々とした口調で言った。それが、俺の選択した結果なのだろう。


「もう一枚、もらえる?」


 と言うと、葉山は自嘲するように


「緑川さんの分?」


 と聞いてきた。俺は、なるべく静かな声で、そうだよ、と答えた。


 葉山はどういうつもりでそう尋ねたのだろう。まるで、傷付くために質問したみたいに思えた。それは、辛いことじゃないのか?


 けれど、葉山は虚しく笑って、自分をごまかしているように見えた。


「瑠璃垣さんを探してるの? 藍田くん、仲良かったんだ」


「仲は……別に。用があるんだ」


「それって、朝の図書委員の展示のこと?」


 隠す理由もないと思い、頷いた。葉山が瑠璃垣のことを何か知っているんじゃないか、と思ったのもある。


「瑠璃垣さん、中学の頃は髪を黒く染めてたんだよ」


 知ってた? と続ける葉山が、ようやく俺を見る。今度は俺の方が、葉山から目を逸らしてしまった。


「だけど、二年生の秋ごろかな。髪を染めるのをやめて、金髪の地毛に戻したの。ああいうしゃべり方になったのも、同じころだと思う。私の中の印象だと、瑠璃垣さんっておとなしい人だったから、はじめて見たときびっくりしちゃった」


 葉山の声は真剣で、淡々としていた。


「金髪を黒く染めさせるのって、変だよね。彼女の髪は元からそういう色なんだから、周りと違うって理由だけで黒く染める必要なんかなかったんだよ……。あのとき、そう言えてたら、何か違ったのかなあ……」


 俺が顔をあげると、目が合った葉山はうれしそうに微笑んだ。だけど、その表情の奥にかなしみの影が透けてみえて儚かった。


「瑠璃垣さんはきっと、ひとりぼっちなんだよ」


 そう言うと、葉山はもう戻らないと、と言って、俺に背を向ける。


「葉山。ありがとう、話してくれて」


「……お礼ならいらないよ。私のこと好きになってくれれば、だけど」


「それは……多分、無理だ」


 葉山はふっと吹き出して、笑った。涙が出るほどおかしかったのか、葉山は目尻を拭う。俺の方からは背中しか見えないから、笑っているのか、泣いているのか分からない。


「正直すぎだよっ。……でも、ありがとう。はっきり断ってくれた方がすっきりする」


 俺は、葉山の背中に声をかける。


「メイド喫茶、一緒にがんばろう!」


 葉山は振り返って、手を振ってくれた。

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