第27話 宝石の行方

「葉山から聞いたよ」


 ゲームの始まりは、瑠璃垣の一言からだった。わざわざ俺の教室まで来た瑠璃垣は、朝の虚ろな表情が嘘みたいに、はつらつとしていた。俺ににやりと笑いかけて、


「おまえもビブリオゲームに参加するんだって?」


 と言った。何のことか分からずにいると、


「あたしとおまえ、どっちが投票数が多いか勝負して、おまえが負けたら、緑川と別れる。今度こそ、本当だよな」


 完全に話についていけなくなり、いや、待て、と口を開いたところで、


「私も、葉山さんに聞いたよ」


 とどこから現れたのか、伊織が割り込んできた。突然のことに驚きつつ、どういうことか伊織に尋ねると、彼女は一から説明してくれた。


 信じられないことだけれど、俺は葉山にハメられたみたいだった。


 いつの間にか、俺は瑠璃垣とビブリオゲームで対決することになっていて、その勝敗の行方で、俺と伊織の今後が決まるのだという。


 その全ての噂を、葉山が流していたのだ。


 それと、君に手紙だよ、と渡されたメモには、葉山の字でこう書かれていた。


『まず、藍田くんに謝らなきゃいけないね。ごめんなさい。

 私はまだ、君のことが諦めきれません。だから、瑠璃垣さんに協力することにしました。本当に緑川さんのことが好きなら、これくらい何ともないよね?


 追伸 目の前で、好きになるのは無理と言われたこと、

恨んでます』


 俺が手紙を読む間、覗き込んでいた伊織が、


「葉山さんって、すっごく強かな人だねえ。君がいなければ、彼女のこと好きになってたかも」


 と言う。当然、瑠璃垣は険しい顔をしていた。俺は、伊織がいなくても、葉山のことは好きにならないと思う。


「これ、いいの?」


 と俺が尋ねると、伊織は自信満々の表情で、


「君、負けるつもり?」


 と皮肉たっぷりに言った。


「これが話題になれば、ビブリオゲームは盛り上がるし、図書委員としては問題ないよ。瑠璃垣さんの原稿を展示できるなら、願ったり叶ったりだ。それに、私は君が勝つって、信じてるしね」


 それを聞いた瑠璃垣の怒りの矛先は、俺に向かってくる。


「決まりだ。まさか、逃げるつもりじゃないよなあ?」


 もはや瑠璃垣は、伊織がどうこうというより、俺の存在が許せないのかもしれなかった。


 断る道は、既になくなっていた。


「分かった。受けて立つ」

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