第24話 ジェラシー・ジェラシー・ジェラシー

「伊織、ごめん」


 彼女がくれた緑の宝石のペンダントは、ずっと俺のそばにいてくれていた。緑川の代わりに、ずっと見守ってくれていたんだ。


 は、訳が分からないといった顔で俺のことを見ていた。説明してほしい、と瞳が訴えている。伊織の中で、俺が言ったことが消化しきれていないんだろう。


「伊織が好きだ。それだけだよ」


「……君は、私が好き?」


 言葉を覚えた異星人か、はたまた感情が芽生えたロボットか。初々しい片言で、伊織は俺が言った言葉を確かめる。確かめたあと、何て言ったらいいか分からない表情で、


「わ、私も好き……君が好き」


 と言った。もしかしたら、その顔が伊織の素顔なのかもしれなかった。芝居がかった話し方や、気取った表情だってまぎれもない伊織なのだろうけど、今目の前で俺のことを見ている伊織の表情は、あまりに無防備で、見ちゃいけないものみたいだった。


「ん?」


 だけど、伊織の混乱が落ち着いてくると、意識のピントが定まってきたようで、俺を睨みつけた。


「私は何度も君が好きだって言ったよね……? それなのに、君はどれだけ鈍感なんだ!」


「だから、ごめんって」


伊織は駄々をこねるように、腕を振り回して抗議する。


「君は軽いんだよ! もっと真剣に謝ってよ!」


 伊織をなだめていると、怒りの矛先が別の方向を向いた。


 彼女は俺のペンダントを手に取ると、ぐい、と引っ張って、


「私に会いたかったなら、私に会いに来ればよかったのに。こんなペンダントがあるからいけないんだ。こんなに大切にしてもらって、ずるい! 私だって大切にされたい!」


 とペンダントにまで嫉妬し始めた。それからしばらく、伊織はいろんなことに嫉妬し続けた。赤根崎や藤村、瑠璃垣にさえ嫉妬した。そんな気持ちを、伊織はずっと抑え込んでいたんだと思う。


+++


 次の日、舞姫の壁掛け新聞が破られているのが話題になった。


 朝には展示をする予定の空き教室に人だかりが出来ていて、その中心には、瑠璃垣りんねがいた。


 彼女は人込みの中の俺を見つけ出し、虚ろな表情で唇を動かした。


『だいっきらいだ』


 瑠璃垣がそう言ったように、感じた。

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