第17話 冗談じゃない
一向に瑠璃垣とは会えないままだった。段々と、瑠璃垣に会って何を話せばいいのか、自信がなくなってくる。俺は、瑠璃垣にただ許してもらいたいだけなんだろうか?
そんな俺を見かねたのか、赤根崎も瑠璃垣についての情報を、俺に教えに来てくれる。
「瑠璃垣さんは隣駅のファミレスでアルバイトをしているらしいよ」
あくまで噂だけどね、と付け加える赤根崎は、俺の表情を窺うみたいに覗き込んできた。
「藍田くんは、瑠璃垣さんに会いたいのか、会いたくないのか、よく分からないねえ」
言外に、瑠璃垣を一生懸命探していない、と赤根崎は言っていた。
「会って、何を話すつもりなの? また邪険にされるだけだよ?」
頭をひねる赤根崎に合わせて、俺も首を傾げる。
「……正直なところ、許してもらいたいと思わないんだ。それを決めるのは瑠璃垣で、俺にできるのは、俺が言ったことが間違いだって認めることと、それが瑠璃垣に対して失礼だったって謝ることだけな気がするんだよな」
「それはもう伝えたの?」
「一度、話したけど、伝わっているかは分からないな」
俺の顔を見て、赤根崎はにやにやと楽しそうに笑った。
「緑川さんの魅力的なところでも話すしかないね」
赤根崎は皮肉のつもりだったのだろうけれど、的を得ているかもしれない。
「俺と瑠璃垣の共通の話題って、それくらいしかないもんな」
「冗談のつもりだったんだけど?」
「俺だって、冗談だよ」
緑川さんに関する話は冗談に聞こえないんだよね、と赤根崎は呟いた。
+++
放課後、赤根崎の言っていたファミレスに行くと、本当に瑠璃垣が働いていた。
「いらっしゃいませ……」
舌打ちされなかっただけ、ましなのかもしれない。彼女はファミレスの制服を着ていて、日本人離れした金髪がより目立っていた。
「瑠璃垣に話したいことがあって来た。いつ頃、終わる?」
無表情の瑠璃垣はじっと黙ったまま、俺を見定めていた。
「悪いけど、いいと言ってくれるまで通うことになる」
「席にご案内いたします」
そう言って、瑠璃垣は背を向けた。歩き出した彼女の背中に、俺は声をかける。
「瑠璃垣、頼む」
「……二時間待ってろ」
それからドリンクバーだけで粘った俺の席に、瑠璃垣が来るまで三時間ほど、待つことになった。
席にどかっと座り込んだ瑠璃垣は、学生服を着ていた。
「で、何?」
「……最近、学校に来てないだろう」
ちっ、と舌打ちして、瑠璃垣はそれきり黙ってしまった。
「どれだけ学校で探しても見つからないのは、バイトしてたからなのか?」
「さっさと本題にはいれよ」
「これも本題だよ」
俺と瑠璃垣の共通点は、緑川だけだ。俺と瑠璃垣は、これまで話したことだってなかった。
「今日だって登校してないのに、どうして制服を着てるんだ?」
「……おまえにはかんけーないだろ」
間が空いて、瑠璃垣が動揺したように感じた。それでもかまわず、畳みかける。
「そこまでしてバイトをしている理由は――」
「――黙れ」
瑠璃垣は淡々とした口調で、言った。
「おまえには、関係ない」
怒りを通り越して、何も感じないほどの事務的な話し方だった。だけど、俺は引き下がるつもりはなかった。
「関係なくない。俺は瑠璃垣と話がしたいんだ」
「もういいよ、許してやるから、あたしに関わるな」
「許すとか、許さないとかそういう話じゃない。俺がしたいから、してるんだ」
「あたしに関わるな、って言ってるんだよ! 口説くなら、緑川にやれよ!」
「違う。俺は瑠璃垣と、緑川の話がしたいだけだ」
俺の話を聞いた瑠璃垣は、思いっきり頭をかきむしった。
「付き合ってられるか!」
テーブルに手を振り下ろし、瑠璃垣は立ち上がる。
「おまえら、大っ嫌いだ」
俺を見下ろして、吐き捨てるように瑠璃垣は言った。そして、彼女は席を離れる。
俺も瑠璃垣に続いて席を立つが、会計のない瑠璃垣は店の外に出てしまい、追いかけたけれど、外に出たときには姿は見えなくなっていた。
おまえら、というのは当然俺と緑川のことなんだろう。
緑川もまた、彼女に何かを言ったのだろうか。お節介と思われるような何かを。
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