第12話 迷子の迷子の子猫さん
昼休みに緑川のところへ行くと、彼女は弁当を持って、教室を出ようとしていた。
「やあ、悪いけど今日は図書当番になってしまってね」
緑川は、休んだ別の委員の代わりに当番に行くということだった。弁当は、もう一人の当番と司書室で食べるらしい。
分かった、とだけ返事をすると、緑川はにやりと笑って、
「私がいなくて、さみしいねえ」
「そういうのはいいから」
「恋人に会えないからって、泣いたら駄目だよ」
適当にあしらうと、緑川は上機嫌そうに手を振って、廊下を走っていった。
俺も教室に戻ろうと、振り返ったとき、人にぶつかりかけた。
「ちっ、よく見ろ」
舌打ちされた相手は、瑠璃垣りんね、だった。
瑠璃垣はコンビニのレジ袋を提げ、もう片方の手に単行本を抱えていた。
「緑川に用だった?」
と気を利かせて尋ねると、また舌打ちされた上、今度は無視された。
瑠璃垣は俺の横をすり抜けていった。彼女は別の生徒とまたぶつかりそうになり、身体をひねる。すると、瑠璃垣が抱えていた単行本から、貸出カードが落ちた。
「瑠璃垣」
と声をかけたけれど、彼女はずんずんと行ってしまった。
カードを拾って、後を追いかけようとしたが、途中で部活の顧問に捕まってしまって、瑠璃垣を見失った。あとでカードを見てみると、裏には可愛らしいシールが貼られていた。
+++
拾った瑠璃垣の貸出カードを、図書委員ということで、緑川に渡すことにした。
「君の交友関係は、何だか驚くよ」
「交友も何も、落とし物を拾っただけだけど」
「彼女、最近よく図書室に来てくれるんだ。私におすすめの本を聞いてきたりしていて、たまに話をするんだけど……」
緑川が言い淀む。
「だけど?」
「ついこの間、君の話をしたら、すごく怒ったんだ」
何か怒らせるようなことしたの? と緑川に聞かれるが、まったく身に覚えがなかった。第一、話をしたのも今日がはじめてだ。
「小さい声で何か呟いていたみたいだけど、何を言っているのかは分からなくて、失礼なことをしたつもりはなかったんだけどね」
「今日は、図書室に来た?」
「ううん、だけど、この前は、私がすすめた本をもうすぐ読み終わるって言っていた」
「じゃあ、カードは伊織から返しておいて」
とカードを渡すと、緑川は裏のシールを見て、
「あっ、ちゃんと貯めてくれているんだ」
と呟いた。
「何、それ」
「図書委員でやっているキャンペーンだよ。一冊読了すると、シールを貼ってあげるんだ」
「……小学生か?」
「案外、人気がある企画だよ」
届け物をしてくれた君にも今度、シールをあげようね、と緑川は笑った。
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