第6話 叱られたい人
体育の授業で緑川が倒れた。
休憩時間にそれを聞いた俺は、着替えるのもあとにして保健室に走った。
「おおげさだよ、ただの寝不足」
ベッドに横になった緑川は青白い顔をしていたけれど、思ってたよりは元気そうだった。
「ははは……、そんなに慌てて」
「馬鹿。心配させるな」
「心外だなあ。君に心配されるなんて」
「……もう戻る」
ベッドから離れようとしたとき、体操着の裾を掴まれた。
「い、行っちゃうの?」
「授業があと三分で……」
と言いかけてやめた。椅子を持ってきて、ベッドの横に置く。
さみしそうな緑川の表情に、ほんのりと赤みが差した。思わず、溜め息がもれる。
「どうせ、明け方まで本を読んでたんだろ」
「……君にはお見通しだねえ」
弱々しく笑う緑川の声は小さくて、俺は緑川に身体を寄せた。緑川は俺に手のひらを見せて、
「手、貸してくれる?」
と言った。
手のひらを握ってやると、緑川はおもちゃでも弄ぶみたいに、俺の手をにぎにぎと触って、満足そうに頷く。
「ごめんね」
「謝るくらいなら、こんなになるまで無理するなよ」
「君の言うとおりだ」
「落ち込まなくていいから」
「うん……」
「……寝不足なんだろ。眠るまで側にいるよ」
緑川は、うんと頷いて、枕に頭を沈めた。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「……叱ってほしいんだ。私がダメな時は」
俺は緑川の額を、デコピンで弾いた。
「なに弱気になってるんだ。伊織が駄目だったことなんてないだろ」
「…………ふ、あはは。そうだねえ、私は駄目じゃない、か」
「そうだよ、伊織は駄目じゃない」
「君が言うと、ホントのことみたいに聞こえるね」
俺は緑川の手を握る。
「本当のことだろ」
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