第5話 よっぽどのこともない
アルバイト先のコンビニに緑川が来るようになった。品出しをしていると背後に立たれて、声をかけられる。
「その制服も様になってきたね」
振り返ると、緑川と目が合った。
「あ、賞味期限きれてる」
かにパンをつまみ上げて、緑川はにやりと笑った。
「まだまだ私がいないと駄目みたいだねえ」
アルバイトしていることは緑川には内緒だったのだが、どこから知りえたのか、コンビニに現れた緑川はレジにシュークリームを持ってきて、俺に声をかけた。
『私に隠し事するなんて、百万年早い』
そのときの緑川は少し怒っているみたいだった。
『私はそんなにお金のかかる恋人じゃないと思うのだけど……?』
緑川の言うとおり、彼女のために出費が増えたわけではなくって、アルバイトを始めたのは、別に理由からだった。とはいえ、それを緑川には話せない。
『たまに様子を見に来ていいかな?』
コンビニに来るのに許可がいる? とおつりを渡すと、緑川は俺の手を握り込んで、
『君の許しがほしいんだよ』
『よっぽどコンビニが好きなんだな』
『ばかか、君は』
+++
バイト終わりに肉まんを買って、店を出た。
緑川は出入り口の横に立って、俺を待ってくれていた。
「中にいればいいのに」
「邪魔をしたら悪いからね」
緑川は俺の手を掴まえて、そばにぴったりと寄った。
「こういう言い訳にもなるし」
俺は余った方の手で、肉まんを差し出して、
「ほら、半分」
「君は私のことを食いしん坊だと思ってないかな」
「好きだろ、買い食い」
「うん、否定はしない」
って言わせるな、と緑川は体当たりしてくる。
二人で食べる肉まんは、いつもよりおいしい気がした。
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