第4話 色気も食い気も

 部活終わりに図書室に寄った。緑川の座るカウンターが、まわりよりほんの少し明るく見えた。


 本から顔をあげた緑川が俺に気付いて、にやりと笑う。


「やあ、遅かったね」


 図書館は緑川のほかは無人だった。緑川は本を閉じて、立ち上がる。


「いま、片付けてしまうから、少し待っていて」


「急がなくていいよ」


 俺はカウンター横の図書新聞を読んで、待つことにする。その中には、緑川が書いた記事もあった。選書は、まさかの恋愛ものだった。


 司書室から出てきた緑川が、やらしいなあ、と言う。


「そんなにじろじろと、何を見ているの」


「別に、なにも」


「……言うことくらいあるだろう?」


「伊織の文章は綺麗だ」


「こんなの、少し本を読んでる人なら、誰でも書けるよ」


 さあ、帰ろう、と緑川は俺の背中を押す。


「今日は寄り道する時間、あるんだろう?」


「本屋に寄ってもいい?」


「……ここで借りていけばいいよ」


「いや、手元に置いておきたいから」


 緑川は少し黙る。それから、俺の目を見て、


「今日はダメだ」


 と言った。


「せっかく一緒に帰れるんだから」


 いつもと同じはいやだ、と緑川は言いたかったんだろう。駅前の書店に行ってしまえば、確かに寄り道はできない。


 俺は少し考えてから、


「おなか、減ってない?」


 と尋ねた。緑川は、


「……すこし」


 と小さな声で言った。


「じゃあ、どこか店に寄ろうか。夕食の時間まで、暇つぶししながら」


 それを聞いて、緑川は目を輝かせた。瞳の色に吸い込まれそうになる。夕暮れの光の中に、深い緑がきらきらと光った。俺は、そんな緑川がかわいいと思う。


「遠回りになるけどいい?」


「いい響きの言葉だね。君が考えたの?」


 そう言って、緑川は笑った。

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