都会的な恋愛がしたい
都会的な恋愛がしたい
京都の朝は寒い。
6年前、大学進学を機に用水路のザリガニを採る手を止めて、島根から大阪に引っ越した。そしてこの度、転職をして京都に移住したのだ。東へ東へと向かっている。じわじわと東京に近づいていく。私が崇拝する池田エライザさんの住む東京に。これ以上東京に近づいてしまうと、太陽に近づきすぎたイカロスのように身を持ち崩してしまうだろうな。
東京に漠然とした憧れを抱えている。
これは思春期に東京の文化を画面越しに多く摂取していたためである。私の住んでいた島根県の集落はめちゃくちゃな田舎であった。隣の家という概念がない。田舎過ぎて文化形成がされず、文明文化はテレビから受け取っていた。新宿の大人なラブストーリー、原宿のポップカルチャー、丸の内ではマーシャルの匂いで飛んじゃって大変、秋葉原では電気を纏ったプロトタイプなオタクが萌え悶える。銀座ではシースー、青山の選民意識、渋谷では交差点でサッカー日本代表の勝利を祝す。それらのほとんどは、東京の4つのテレビ局(テレビ朝日、テレビ東京は映らない)を通して服用していたのだ。田んぼの畦道をポテポテと歩きながら、「東京はすごいんだろうな〜住んでみたいなぁ〜ふぇぇ、あ、イモリだ!捕まえよう!」と思っていた。
フレンズというバンドがある。
渋谷のひとつ隣、少し大人チックな(らしい)街、神泉からとった『神泉系』を自称するおしゃれシティおしゃれポップおしゃれ東京おしゃれ大人バンドだ。都会的な生活、都会的な恋愛や友情を独特のユーモアでコメディに仕立てる。以前、当ブログで紹介した『夜にダンス』が有名である。私は東京をこのバンドから感じている。
そんな彼らの代表曲のひとつが『NIGHT TOWN』だ。
フレンズ「NIGHT TOWN」
私はこの曲が大好きなのだ。大好きなのだが、何言っているかさっぱりわからない。正確には、意味はわかるが本質的な理解が出来ていないというところであろうか。海外の文学を読む時のように、物語の筋や流れはわかるものの、シーンや感情の機微に迫れていないモヤモヤを抱える。しかし、惹かれるのだ。この感覚は椎名林檎さんの『丸の内サディスティック』を聴く時にも感じる。何言っているか全くわからないが惹かれる。思えばこの曲の舞台も東京だ。音楽の聴き方は人それぞれである。共感ではなく世界観、憧れで音楽を聞いてもいいのだ。
『NIGHT TOWN』を理解できる部分を箸で摘むように聴いてみる。どうやら恋愛を歌った曲らしい。東京の明るい夜、これまた明るい月の下、身を寄せ合って歩くふたり。私は君のこと「すきになっちゃた」のだけど、君はどうかな。「君のハート」を早く教えて欲しいな。延長線の行方が知れないもどかしくてじれったい恋心をボーカルのえみそんが歌い上げる。低音やファルセットが魅力的だ。リズムの取り方が独特で心地が良い。しかし、何言っているかわからない。これは私が恋愛に疎いからだろうか、島根出身の田舎者であるからだろうか。はたまた恋愛弱者かつ田舎者であるからだろうか。
この曲は「東京の夜は寒いね」というフレーズから始まる。ここからもうわからない。「季節によるだろ!」と言いたくなる。また、東京は平野にあるため、日較差(1日における寒暖差)も内陸に比べて小さいではないか。しかし、これは田舎者の発想である。夏だろうが、冬だろうが東京の人間からすれば「東京の夜は寒いね」なのだ。この後も基本的にはずっとわからない。「ヘイMr.なスターライン」ってなんだよ。助けてくれ。
サビに「同じ体温で眠りたい」という歌詞がある。これはわかる。わっかる。犬科の哺乳類ワッカル。ここが一番わかる。東京での恋愛も、島根や京都や大阪と同じように、行き着く先は優しくし合うこと、そしてそれを許すことである。これは万国共通であるらしい。私もウインナーコーヒーに似た都会的な恋愛の妙味を味わい、最終的に狸顔の可愛らしい女の子と同じ体温で眠りたい。しかし、恋愛弱者かつ田舎者には越えるべきハードルが多すぎる。
「フレンズの曲めちゃくちゃ良いので聞いて欲しい」というお話でした。
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