「高評価お願いします」に赤面する

「高評価お願いします」


YouTubeを見ているとよく耳にする言葉だ。


主にユーチューバーの方々が動画の最後で言っている。YouTubeでは、視聴者がそれぞれの動画に対して『高く評価』『低く評価』のいずれかのボタンを押すことができ、『高く評価』がたくさん押されれば、それだけYouTube上での拡散度が高まる。そういう訳で、投稿者は『高く評価』のボタンを押してねという意味で「高評価お願いします」と言う。もはや、この文言が動画を締めくくる際の通例的な挨拶となっている。


私はこの言葉を聞くたびに少し赤面してしまう。


「高評価お願いします」


要求がストレートすぎる。


この言葉を聞くたびに、「うん、まあ、いいんですどもね」と思いながら視線を逸らしてしまう。YouTube上に載せる動画は投稿者にとって成果物である。作品と言えるかもしれない。そんな成果物を「高評価お願いします」で締めくくられると、その要求の真っ直ぐさに照れてしまうのだ。


自分ないし、自分の成果物を他者に高く評価して貰いたいという欲求はほとんどの人間にある。かくいう私にも。その手段としてのアピールは結構なことだ。コンテンツ過多な現代においては、見つけられるのを座して待つのではなく、評価は自ら取りに行かなければならない。謙遜が美徳というか社会的定石とみなされている社会で、自分から評価を要求できるのは清々しくさえある。


しかし、「高評価お願いします」という文言はあまりに露骨すぎやしないか。カツアゲをする不良だって「お金をください」とは言わない。「飛んでみろよ」とか「今お金なくてさ、貸してくんない」などと表現を迂回させる。一方、「高評価お願いします」である。直球すぎる。このようなむきだしの言葉を投げかけられると気恥ずかしくなる。


さらに言えば、そんな実直さを持って要求するものが「高評価」だ。ここが照れくさい。


「評価お願いします」ではない、「"高"評価お願いします」である。すごい。こちらが動画を高く評価していることは前提で、それを早く渡してくれとも言わんばかりの物言い。私の中では、「高評価お願いします」は「私を好きだと言いなさい」と言われる感覚に近い。抱いている恋慕の情を表明するよう強いられているような気分になる。愛のカツアゲ。赤面すること請け合いである。


ここに、ひとりの女の子がいる。


背は低く、髪は肩まで短く切り揃えたウルフカット、大きな黒目がウサギを思わせる可愛らしい女の子だ。端的に言うと、私は彼女に恋慕を寄せている。彼女とは何度かふたりきりで遊びに出かけているものの、私は石橋をコツコツ入念に叩くばかりで、ふたりの関係を前に進める一手を打てずにいる。


「今日はありがとうね」


私は軽く頭下げた。


「今日こそは」と意気込んで本日のデートに臨んだものの、想いを打ち明けるタイミングを伺っているうちに改札前まで来てしまった。もはやこれまでか。まあ、今日がダメでも明日がある。明日がダメなら明後日がある。私は「じゃあ」と言って改札口へと歩き出そうとした。


彼女は小さくため息をついた。


彼女の方を見ると、何か物足りない顔をしている。彼女はジロリと冷ややかな目で私を見た。


「何か他に言うことがあるんなじゃないですか。本当に駄目な人ですね」


「なんだい?」


「水野さん」


「はい」


「高評価お願いします」


不意の一撃である。


彼女は私の目を真っすぐに見つめている。どうやら私の恋心は先刻承知であったらしい。その上に成り立っている繊細微妙な関係性すらをも崩そうとしてくる。大した胆力の持ち主だ。これが彼女の彼女たる所以である。そんなところも好き。ただ、私が後生大事に抱えている優柔の不断を見くびってもらっては困る。私は敢えて超然と答える。


「尊敬しているよ」


「ばか、そうじゃないでしょ」


ここまで言われては観念するしかない。私は清水の舞台から飛び降りる心地で声を絞り出した。


「はい……好きです……」


私がそう言うと、彼女は満足げに頷いた。


「チャンネル登録もお願いしますね」


いかがですか?


「いかがですか?」と言われても困りますよね。私にとって、「高評価お願いします」という文言はこんな感じです。よかったら、高評価お願いします。

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