第5話
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「あっ、ごめーん。つい、うっかり……コンセントに水が掛かって、漏電しちゃったよ☆」
私―――東雲アスカは顔も見えない相手にそう口にしつつ、ケラケラと嘲笑う。そして心の中では「残念でした」と唱えながら。
「まっ、この声も聞こえているかどうか分かんないけど。私、機械関連の事なんて全然知らないしー」
そう、機械の事は全く分からない。けれども、誰かがずっとこの部屋を監視している事は大分前から知っていた。
だって……この部屋に来る度に、変な視線を感じていたから。厭らしい、ネットリとした不快な視線。私からせんせーを奪い取ろうとする手合いが向けてくる様なそんな視線を。
でも、監視されている事は分かっても、私にはその対処の仕方が分からなかった。場所も巧妙に隠してあるみたいだから、そうした証拠も見つけられない。だから、これまでは見過ごす事しか出来なかった。
だけど、その解決方法をさっきちょうど思いついたんだ。カメラが仕掛けられているなら、それは電気で稼働をしているはず。なので、その大本を断てば良い。それが、ブレーカーを落とすという手段だった。
そして丁度いい具合に私は通り雨に降られてずぶ濡れの状態だったから、濡れた上着を脱いで手頃なコンセントに水を絞って掛けてみる。すると、やはりブレーカーが落ちた。お陰で監視カメラから見られているという不快感を感じる事は無くなった。つまり、私の勝利とも言える状況だ。
きっと仕掛けたお馬鹿さんも、今頃はきっと喚き散らしているんじゃないだろうか。ふふっ、ざまーみろっ感じ☆
「……ふふっ」
その事実があまりにも可笑しくて笑いが込み上げてくる。思わず口元に手を当ててクスクスと笑ってしまう程だった。
「……おっと、いけないいけない。こんな可愛くない顔をせんせーに見られたら大変だよ」
だって……今の私はきっと歪んだ顔をしてしまっているだろうから。笑顔を隠しつつ……隠し、つつ―――
「……ぷっ! あははははははははは!! あははははは!!」
だけど、私は笑いが堪えきれない。でも、それも仕方のない事だよね? だって、今までずっと隠し撮りしていた相手に吠え面をかかせてやったのだから。私にとって、こんなの当然の報復だよ。だって、今までどれだけ私のせんせーを勝手に覗いていたと思っているの?
あっちも私がせんせーの事好きって知ってるくせに。その私に喧嘩を売るなんて……いい度胸をしているよね。だから、私は遠慮しない。私を邪魔するっていうなら、全力で叩き潰すだけなんだから。
「あの女には今まで散々嫌な思いをさせられたからねー……あはっ」
思わず舌なめずりをしてしまうくらいに、今の気分が最高潮な私。
「でも……まだ私の満足感は全然満たされてないからさー」
あの女に嵌められた悔しさはもう綺麗さっぱり無くなったんだけど、復讐心はまだ全く収まっていない。だって、このままだと不公平だったから。
私がせんせーを会えたり一緒に入れるのは限られた時間なのに、それを向こうは無視しているから。向こうだけ得をして過ごしているのは許せない。だから、この機会に一気に清算させて貰う事に決めたよ。
「まっ、これで監視の目も無くなった事だし? 思う存分にせんせーと一緒にいられるよねっ」
そうして私は寝ているせんせーに近付くと、甘える様に引っ付く。まだ身体を拭いていないから濡れたままなのと、さっき上着を脱いでそのままだから下着姿になっているだとか、もうそんなの全然気にならなかった。
「私、我慢したんだよ? 本当にいっぱい我慢してきたの……だからさ」
せんせーに引っ付いたまま、上目遣いで見詰める。そして精一杯の甘い声を出してこう囁いた。
「ねぇ、せんせー。私にご褒美をちょうだい? ねっ?」
私はそう尋ねるが、返事は何も返ってこない。まぁ、そうだよね。こんな状況でも、まだせんせーは呑気に寝ている状態なんだから。だから、好きにさせて貰うね。
そうして私はバクバクと鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりと自分の唇をせんせーの唇へと近付ける。そして……その距離が縮む度に段々と吐息も荒くなっていきながら、唇を寄せて―――
「むぐっ」
唇が重なる寸前で、何かが私の口を塞いできたのだった。それは少し温かみのある大きな手。私の大好きなせんせーの手だ。
そう、いつの間にかせんせーは目を覚ましていて、私がしようとした事を止めてきたのだった。せんせーは寝ぼけた目で私を見つつ、少し困った様な表情を浮かべつつ、何も言ってはこなかった。
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