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第1話
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曇りの無い青空。降り注ぐ太陽。暑くもなく寒くもない程よい気候。誰がどう見ても絶好の天気だと判断するだろう。
そうした天候の中、私―――東雲アスカは校内を適当に散策をしていた。別に何か用があってうろついているのではなく、ただ単に何となく校内を彷徨っているだけだ。目的などは特に無い。強いて言えば……そう、こうした日は良い事が起こりやすい気がする。
だから、こう……何て言うか……良い感じ? で、やっぱりこう……こう、何か幸運が訪れる様な出来事とかあるんじゃないかなぁ……とか、思っちゃったりする訳。実際、私は何度もそうした出来事に遭遇しているから、確信は深まっている。
だから、私は期待に胸を膨らませながら校内を彷徨っていた。すると……私の視界の中にあるものが見えてしまった。とっても良い感じの幸運の予感が、私の頭の中を過った。
「……ふふっ」
思わず笑みを零してしまった。自分でも分かる程、今の私の顔はとても緩んでいる事だろう。だからこそ、私は慌てて緩みきった顔に手を当てて、表情を引き締め直す。
そして再び前を向いて歩き始めると、ある場所を目指した。もちろん、そこに向かって歩くだけでも心が弾んでいる様に感じる。
しばらく歩き続けていくうちに、自然と笑みが零れてくるのを堪えながら、私は目的地へと辿り着く。そして―――
「……っ」
辿り着いた直後、私を目掛けて豪快な通り雨が頭上に降ってきた。大量の水の塊が勢い良くぶつかってくる。それによって私の髪が、身体が、着ている服が一気に濡れてしまい、肌に張り付いてくる。
そして通り雨は一度だけでは無かった。もう一発とばかりにまた私に向かって上から降り注いだ。予測していた事だったけれども、それでも水が降り注ぐ感触や、衣類が肌に張り付く感覚に少し不快感を覚える。
「……」
私は全身ずぶ濡れの状態のまま、ゆっくりと上へと視線を向ける。すると、そこには校舎から複数の生徒がこちらを見下ろしていた。数人の生徒は楽しげに笑みを浮かべながら、スマホを構えている。私の惨状を見て、悦に浸って楽しんでいるようだ。
「東雲さーん、随分と濡れちゃってるねー。水も滴る良い女って感じー?」
「わーお、今の東雲さん、めっちゃ最高なんですけどー」
そう言って揶揄う様な言葉を私に投げ掛けてくる。猿山の猿達の様な喧しさと嘲笑う様な視線と共に。だけど、私はそんな彼女達に対して、特に怒る様な事はしない。だって、これが……私にとっての幸せの兆しなのだから。
「ごめんねぇー、東雲さーん」
生徒の一人が、主犯格の女子生徒がニコニコと笑顔を浮かべながら、手を振りながら言った。悪びれた様子は微塵も感じられなかった。それどころか、寧ろ楽しんでいる様にすら見える。
だからこそ、そんな彼女に向けて私はこう言ってあげた。
「別にいいよー! それよりも、ありがとー!」
彼女に向かってにっこりと笑顔を浮かべつつ、私はそう答えた。すると、彼女は呆然とした表情を浮かべた後、心底怪訝そう表情を浮かべた。
「は?」
自分が想定したいた反応とは違う反応を見せられてか、彼女の表情が醜く歪む。この学校の中で私は一番可愛いとか自称をしている癖に、今のその顔はとても酷い顔に見えた。
「……ったく、何なんだよ、全く……」
ブツブツと呟きながら苛ついた様子を見せた後、彼女は私から興味が失せたのかフイっと顔を背けた。そして私の視界から消えていった。他の生徒達も彼女に続いてどんどんと私の視界から消えていく。
「ほんと、意味の分からない奴……」
「頭沸いてんじゃないの」
「つーか、十分楽しんだから、もうどうでもいいよねー」
口々にそう言いながら、みんなどこかへ去っていった。まぁ、別にいつもの事だから気にもならないのだけれど。
「……あーあ。今日も災難だったなー」
誰もいなくなったその場で、私は一人呟く。だけど、そんな言葉とは裏腹に私の表情は満面な笑みにあふれていた。
「こんな状態じゃあ流石に風邪を引いちゃうから、早く着替えないとねー」
そう呟きつつ、私は踵を返してある場所に向かっていく。そう、向かう先なんて決まっている。そこが私にとっての憩いの場であり、私にとっての居場所なのだから。
全身から滴る水を軽く絞りながら、私は今日もあの場所―――せんせーのいるあの部屋に足を運ぶ。大好きなせんせーがいるあの場所へ。
私の味方で、私の事が凄く大事で、私を想ってくれる優しいせんせーなら、急な通り雨に遭遇してしまった可哀想な私を見捨てたりなんてしない。だからこそ、私は期待に胸を膨らませながら学校を彷徨っていたのだから。
「えへへっ♪」
私は小さく声を漏らしながら、軽やかな足取りで目的の場所に向かった。今日も先生と過ごせる素敵な時間を想像していると、つい笑みが零れてしまう。そして自然と足が早くなる。
あぁ、私は今日も……とってもとっても幸せだと、心の底から思えるのだった。
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