第2話
そうしてしばらくして、パソコンは無事に復旧する事が出来た。サオリがこういった分野にかなり精通しているので本当に助かった。パソコンも初期化する事も無く立ち上がり、更には作成をしていた書類のデータまで元通りになっている。本当に凄い事だと思う。
「サオリ、本当にありがとう。助かったよ」
僕はサオリに向けて素直にそうした感謝の気持ちを伝え、それから嬉しさのあまり彼女の手をぎゅっと握った。すると、サオリは少しばかり驚いた様子を見せた。
「え、ええっ!? ど、どうしたっスかせんせ。急に手を握られたらびっくりするっスよ……」
「あ……ご、ごめん」
「い、いや、嫌という訳じゃないっスから別にいいんスけど……」
そう言いながら頬を赤らめる彼女に釣られて僕も何だか気恥ずかしくなってしまう。しかし、そんな空気も一瞬の事で、サオリはすぐに向き直ったかと思うと口を開いた。
「えっと、アタシは先生の役に立てて良かったと思うっス! だから、気にしないで欲しいっス!」
「そ、そうかな……?」
「はい! だから、これからも頼って欲しいっス」
「……分かったよ。じゃあ、また困った時はお願いさせて貰うよ」
「はい! いつでもバッチコイっス!」
そう言って彼女は元気よく返事を返してくれた。そんな彼女を見て僕は思わず笑顔になっていた。そうしてしばらくした後、サオリはふと思い出したかのような表情を浮かべるとこんな事を聞いてきた。
「そういえば、せんせ。せんせのパソコンを触っていて思ったんスけど、セキュリティがガバガバじゃないっスか? ウイルスに感染するのも納得って感じだったっス」
「え……? あっ、そうなの?」
「もしかして、自覚無しっスか? 流石にセキュリティがガバガバ過ぎて、ちょっと心配になるレベルだったんスけど……」
「いや……何というか、その、パソコンはあまり得意じゃないものだから、その辺りは良く分からなくて……」
「あー、なるほど。せんせは機械とか苦手そうっスもんね」
サオリは僕の返事を聞くと、納得したかのようにうんうんと首を縦に振り、それからこう続けた。
「それなら仕方ないっスね!」
「本当にごめん……」
僕が謝ろうとすると彼女は慌てた様子で「謝らなくてもいいっスよ!」と言ってくれた。
「……でも、セキュリティがガバガバか……確かに言われてみれば、そんな感じもするかもしれない」
「そうっスよね! アタシ的にはそこが問題だと思うっス……」
サオリはそう言うとしばらく何かを考えていた様子だったが、やがて何か思いついたようにポンと手を叩いた。
「あ、そうだ! もし良ければアタシがせんせのパソコンを見てあげるっスよ!」
「え?」
「苦手なせんせだとセキュリティ面の設定なんて出来そうもないけど、アタシなら問題ないっスから! だから、アタシに任せろっス!」
そう言ってサオリは胸を張った。しかし、そこまで彼女に頼り切っていいのだろうか。
「いいよ、悪いし……流石にそこまでしてもらうのは……」
「いいんスか? アタシは大丈夫っスよ?」
「いや、でも……」
僕がそう言うと、サオリはキッと目つきを鋭くさせてから僕に向かってこう言った。
「せんせはもう少し周りに頼る事を覚えるべきっス。アタシに出来る範囲なら喜んで協力するんで、遠慮なく言って欲しいっス!」
「だけど……」
「さっき困った時はお願いするって言ったじゃないっスか。それって今がその時なんじゃないんスか?」
「まぁ、確かにそれは言ったけどさ……」
僕がそう言うと、彼女はにっこりと笑ってみせた。そうして優しく諭すように言葉を続けた。
「だから、アタシに任せて欲しいっス。それに……アタシとしてはせんせに頼られて嬉しいですし、せんせもセキュリティ対策が出来てwinwinなんじゃないっスかね? その辺も含めてお互い良い事尽くめだと思うっスけど……」
サオリはそう言うと少し頬を赤らめて見せた。そんな彼女を見て、僕は小さく溜め息を吐く。
「はぁ……分かったよ」
「おっ、引き受けてくれるんスね!」
「君がそこまで言うのなら……断る方が失礼だろうからね」
「その通りっス! 流石はせんせ、分かってるっスね!」
「ただ……今はちょっと待って欲しいな。今日中に提出しないといけない書類があるから、明日以降で頼んでもいいかな?」
「あぁ、確かにそうっスね……そういう事なら仕方ないっス! 了解したっス!」
そうしてサオリは納得した様に小さく笑って頷いてくれた。そんな彼女の姿を見ながら僕はそっと安堵していた。
「あっ、それとせんせ。ちょっと提案があるんスけど……セキュリティ面だけじゃなくて、この際パソコンの性能自体をパワーアップしてみた方が良いと思うっス!」
「パワーアップって、そんな事も出来るの?」
「モチっス。せんせのパソコンって古いし基礎スペックがあまり良くないから使い辛いところがあるし、ちょっと分解する事になるっスけど、今の性能よりもグンと性能が上がるはずっスよ!」
「そうなんだ……じゃあ、よろしくお願いします」
僕は彼女の言葉を信じて彼女にお願いする事に決めた。彼女ならきっと上手くやってくれるに違いないと信じている。
「それでは、また明日パソコンを引き取りに寄らせて貰うっス!」
「あぁ、待ってるよ。ありがとう、サオリ」
「いえいえ、どういたしましてっス! それでは失礼しまっス!」
彼女は上機嫌そうに微笑むとそのまま帰っていった。そうして彼女の姿が見えなくなると同時に、僕は自然と安堵の溜息を吐いていた。
「本当、気が利くよなあ。これだけ助けて貰って大助かりだよ……」
そんな事を呟きながら僕はまた椅子に腰掛けて、復旧したパソコンを操作していく。そして迫る締め切りに間に合う様に作業を進めていくのだった。
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