case3.南雲チセ

第1話


 ある日の放課後。生徒達が屋外や校舎内で部活動に勤しむ中、僕は生徒相談室にてある調べものをしていた。


「……この話題、今度のエリカとの特訓にいいかもしれないな」


 パソコンで検索をしている中で偶然目に入った話題に僕は目を止めた。僕みたいなおじさんには良く分からない話だけど、これは年頃の女の子に向ける会話としてはいいのかもしれない。


 そう考えながら僕はキーボードを叩いたり、マウスをクリックしたりと作業を続けていった。自分の職務もあるからこうした事にそれ程は時間は掛けられないので、手早く済ませてしまわなければならない。


 幸いにも話題について纏めたページはネット上にあったので、僕は早速そのページへと飛んだ。それを見ながらエリカへの特訓内容に組み込めるかを判断していく。


 そしてある程度作業を進めた所で手が空いたので、僕は椅子の背もたれに体重を預けて一息吐いた。その時、視界の隅で僕はある物を見つけてしまう。


「ああ、そう言えば……片付けるのを忘れていたっけ」


 僕は立ち上がると、その見つけたある物の近くまで歩いて行った。それというのは大き目の紙袋。昨日、アスカから渡された物である。中身は先日に彼女に貸した体操服が入っている。


「アスカも割とおっちょこちょいだよな。良く忘れ物をするけど、ここまで頻度が高いと何か対策を考えないといけないかもね」


 体操服だけじゃなく、教科書や筆記用具といった物をアスカは良く忘れてきたりする。けど、決して彼女の授業態度が悪いという訳じゃない。彼女もまた真面目な子で、ノートもしっかり取っているし成績だって悪くない。寧ろ、高い成績を修めている。


 ただ、それでも忘れ物が減る気配が無いのは、単に性格的な問題なのだろうか。それとも生活習慣からくるものなのか。いずれにしても、アスカとは一度その事を話し合う必要がありそうだ。


「とりあえず、まずはこの体操服を戻して……と」


 僕はその紙袋を持ち上げて、中の体操服をいつもの場所に戻しておく。それから席に戻って仕事にまた取り掛かりだそうと―――


「ん?」


 椅子に腰掛けようとしたタイミングで、ズボンのポケットに入れていたスマホが振動をしたので取り出し、画面を見てみるとメッセージアプリに一件の通知が届いていた。


 僕はスマホの画面をタッチして、メッセージアプリを起動すると、その通知内容をチェックした。すると、送ってきた相手からのメッセージが画面に表示される。


『先生』


『今すぐ会いたい』


 たったそれだけの短いメッセージ。けれど、それでも十分すぎる内容がそこにはあった。


「……えっと?」


 あまりに簡潔過ぎる文言に僕は戸惑う事しか出来なかった。こういう場合って何か返信しないといけないのだろうか。とりあえず『どうしたの?』とだけ書いてみる。すると再びスマホが震える。


『今すぐ来て』


 更に追加で送られてきた文を見て、僕は頭を抱えたくなった。本当にどうしたというのか。急を要する事態でも発生したのか。そして僕の返信を待たずにまた相手からメッセージが届く。


『待ってるから』


 そんなメッセージと共に、相手から画像が二枚送られてくる。一つ目はこの学校の屋上の画像で、二つ目は屋上から地上に向けて見下ろす様に撮られた画像。僕はそれらを見て更に困惑する。


「全く……」


 僕はそう口にしながら頭を掻きながらも、相手に向けてメッセージを送る。慣れない手つきでそれでも何とか早く内容を打ち込み、それから送信ボタンをタッチした。


『分かったよ。今から行くね』


 メッセージを送信してからものの数秒で既読が付く。しかし、既読は付くがそれからは返事は送られてこない。僕は仕方なくそのまま生徒相談室を出ると、真っ直ぐ屋上へと向かっていくのであった。


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