第2話
「ごちそうさま」
「うん」
お互いに食べ終えた頃になると、エリカは無表情ながら満足そうな表情を浮かべる。それを見て僕は苦笑しながらも口を開く。
「お茶でも入れようと思うけど、エリカも飲むかい?」
そう尋ねると、彼女はこくりとだけ頷いた。なので、僕はお茶を沸かしに行く事にする。僕が立ち上がり私物の電気ケトルのスイッチを入れ、お茶を用意し始める。僕がそうしている間、エリカは僕の事をじっと見つめていた。
「緑茶でいいかな?」
「何でもいいよ」
「そう。じゃあ、緑茶で。と言っても、それしか置いてないんだけどね」
僕が苦笑を浮かべながらそう話すと、エリカはまた小さくこくりとだけ頷いて答える。僕なりに用意をしたツッコミのポイントだったけれども、どうやら乗ってはくれない感じである。
それから程なくしてお湯が沸き、僕は急須に緑茶の茶葉を入れた後でお湯を入れる。そして部屋にある適当な湯呑みに緑茶を入れてからエリカの近くに湯呑みをそっと置いた。
「はい。熱いから気を付けてね」
「ん」
そう言ってからエリカは湯呑みを手に取って、それから少しだけ口に付けてから机の上に戻し、また僕をじーっと見つめ始めた。
そうした行動を不思議に思いつつも、僕も自分の湯呑みに口を付ける。入れたばかりでまだ熱いので、エリカがした様に僕も少し飲んでから机の上に置く。
その間、僕の一挙手一投足をエリカは黙ったままずっと見つめ続けていた。それはもう、食い入る様に見つめている。
……もしかして、お茶が熱くて飲めなかったのだろうか。それで無言の抗議をしているのだろうか。なんて思いながら僕は恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……エリカ? どうかしたかな?」
「先生」
「う、うん」
「あれ」
「え?」
「だから、あれ」
エリカはそう言うと、僕の背後のどこかを指差して見せる。なので、僕はそれに合わせて後ろを振り返りつつ、その先へと視線を向けた。しかし、彼女が指を差した先には特に何も無く、そこにはいつも通りの光景があるだけであって、何もない。
「うん? 何もないけど……何か見えたかい?」
僕がそう尋ねるとエリカはふるふると小さく首を横に振る。そして―――
「……何でもない」
と答えた。僕はそれを受けて「そ、そう……」と答えるしかないのであった。それから彼女はまた湯呑みを手に取って、中身を口に含んだ。今度は湯呑みを置く事は無く、そのまま持ち続けている。
「その……エリカ、熱いの苦手だったかな?」
僕がそう尋ねると、彼女はやはり首を横に振る。そして無言の時間が続いてしまうので、どうにも気まずい空気が生まれてしまう。それを払拭したいが為、僕は自分の湯呑みに手を伸ばして飲もうとする。
「あれ?」
その時、自分の湯呑みを見てちょっとした違和感を僕は抱いた。さっきまで入っていた量と、今の量が違って見えたのである。僕は湯呑みを手に取り、近付けて目を凝らしてもう一度見てみるが、やはり目に映る量は同じには見えない。
「?」
その時、エリカが少しだけ不思議そうに僕の顔を見つめていた。彼女の視線からは何かあったのかと問われている様な感じである。
「……いや、何でもないよ」
僕は誤魔化すようにそう言うと、エリカも「そっか」と言うだけで特に深く尋ねる事はしなかった。
それから僕はしばらく中身を見ながら首を傾げるが、別に湯呑みに穴が開いていて漏れている訳でもなく、勝手に減っている訳でもない。どうやら見間違いであった可能性が高いので、僕は深くは気にしない様にした。
それからお茶を飲みながらお互いにしばらく無言のままの時間が続くが、何となく僕の方から口を開く事にした。
「エリカ」
「……何?」
「これを飲んだら、特訓を始めようか?」
「ん」
僕の言葉に対して、エリカはこくりとだけ頷いたのだった。
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