第2話




「……もう、せんせーったら。外なんか見てないで、私の方を見てればいいのに」


 と、そんな事を考えていると、背後からアスカの文句が聞こえてきた。


「外の景色よりも、私の方がずっと魅力的なんだから……目を逸らしたら駄目だよー?」


「……あはははは。参ったね」


 僕は頭を搔きながら言い返す言葉も思い浮かばず、とりあえず苦笑交じりにそう答えてみせた。


「けど、アスカも女の子なんだから、最低限の羞恥心は持った方がいいと思うよ」


「えー? でもさー……」


 僕が注意すると、不満そうな感じで彼女は言葉を返してきた。それからクフフと笑うと続けてこう言った。


「せんせーにだったら……見られても、全然問題ないけどなぁ~」


「……」


「ほらほらー、せんせー? 何かコメントはー?」


 アスカの言葉に僕が無言を貫けば、彼女は僕に向けて楽しそうな笑い声を零した。そんな彼女に向けて、僕は仕方なくといった感じに顔を向けてから、少し間を空けた後に溜め息を吐き出す。


「あのね、アスカ」


「なに、せんせー?」


 僕の言葉を受けて首を傾げるアスカ。そんな彼女に向けて、僕は真剣な表情を作りながら続けて言った。


「それ以上続けるのなら……僕もいい加減怒るよ?」


「あっ……」


 僕から厳しい口調で言われたからか、途端に表情を強ばらせるアスカ。どうやら調子に乗り過ぎた事を自覚したらしい。そして目に見えてシュンとなっていると、「ご、ごめんなさい」と小さく言葉を漏らした。


 そんな落ち込んだ様子を見せるアスカに向かって僕は小さく息を吐くと、椅子から立ち上がって言った。


「そんな事を言ったりしなくても、僕はアスカの味方のつもりだよ」


 するとアスカはハッとした表情を作りながら顔を上げた。そのタイミングで僕は彼女に微笑み掛ける、そのまま言葉を続ける事にした。


「だから、あんまり大それた事はしないでね?」


「……うん。分かったよ、せんせー」


 アスカは少し遅れてから頷いてみせた。分かってくれた事を嬉しく思った僕は、彼女の頭に手を伸ばすと優しく撫でて見せた。


「分かってくれて嬉しいよ」


 そう言って微笑みかける僕に対して、アスカは気持ち良さそうに目を細めながら微笑んでいた。その様子はまるで猫の様でもあったけれども、それが彼女らしいという事なのだろうなと改めて思い直す。


「さて……分かってくれたのなら、早く身体を拭いて着替えを済ましちゃおうか。風邪を引いたら大変だよ」


「……はーい」


 そんなやり取りを交わした後で僕はアスカの頭から手を離し、彼女に先程の続きを促した。するとアスカはこくりと頷いてから再びタオルで身体を拭き始めた。


 ちゃんと彼女が指示に従ってくれた事を確認した後、僕は自分の席に戻っていき、また視線を彼女から外したのだった。


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