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レイカはその日、午後九時頃に殺しの現場に向うと言った。

現場は、港の近くの廃工場だった。よくドラマなどで見るが、本当にあるんだな、と直人は思った。


直人はレイカを車で送りつつ、少し離れた場所で仕事が終わるまで待機する役だった。


彼女は黒いMA-1に黒いスキニーパンツを履いていた。殺し屋のイメージ通りすぎて怪しまれないものかと勝手に心配していたが、彼女曰く一番動きやすい格好なのだそうだ。


二時間くらいで終わるから、とレイカは言った。


直人は車で待つ間、スマホでゲームをしていた。だが次第に眠くなり、うとうとしだした。


しばらくして、足に衝撃を受け目を覚ました。手から滑り落ちたスマホが足に当たったらしい。

いってぇな、と言いながらスマホを見ると、午前二時すぎだった。ここに着いたのが午後十時頃だから、四時間以上経っている。


いつのまに、と思うと同時に、おかしいな、と思った。二時間で終わるとレイカは言っていたし、そういう時はいつも必ず時間通りに戻ってきていた。それに今まで、現場に着いてから連絡もなしに三時間以上たったことはなかった。


スマホの通知をチェックしても何もきていないので、電話をかけてみた。しかし、レイカのいる場所は電波がないのか、通じない。


直人は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。レイカの身に何かあったのではないか。


そう思うといてもたってもいられず、直人は工場に向かった。


その工場は、小学校の体育館程度の大きさで、入り口の扉は閉まっていた。だが、右側の壁に沿って進むと、ちょうど直人の顔くらいの高さに、ガラスのはまっていない窓枠があった。


直人は屈み、その枠から中を除いた。

その瞬間、心臓が跳ねた。


建物の中央に、銃を手にした男の姿があった。

そしてその銃口は、柱に縛り付けられたレイカに向いている。


まずいと思った。どうやらレイカは、殺しに失敗して捕らわれてしまったらしい。


直人が覗いている窓枠は入り口の近くにあり、直人から見える男はほぼ後ろ姿で、男はこちらに気付いていない。レイカも直人には気付いていないようだった。


すると男が口を開いた。

「お前の目的はわかっている」


「だがそんなことをしたところで何も変わらない。お前が今までやってきたことも、なんの意味もない。誰にも知られない。誰も救えないぞ、、お前自身もな」


レイカは、冷めた目で男を見ている。

「私に説教するつもり?」


一体何の話をしているのだ。直人は混乱した。


「死ぬ前に、諭してやろうと思ったんだ。改心して死ねば、地獄行きは免れるかもしれんぞ」

男は低い声で笑った。


直人は焦った。

直人の知らない事情を知るらしい男の話を聞いていたい気持ちもあったが、このままではレイカが殺されてしまう。


直人は、音を立てないよう細心の注意を払いながら、窓枠に足をかけた。

その時、レイカが一瞬こちらを見た。

気付いたな、と思うと同時に、それが男に悟られないかひやっとした。


するとレイカは何を思ったのか、突然こう言った。

「ねえお願い、最後に一曲歌わせて」

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