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直人は昼間、店に立ち客に飲み物を振る舞った。店に来るのは四、五十代の男性が多く、常連らしい者も何人かいた。


レイカは直人について、新しいバイトの子、と常連たちに紹介した。

実際この店では、直人は普通の飲食店のバイトと何ら変わらない業務しかしていなかった。


レイカについての質問はほとんど禁じられているので、直人は働きながら彼女をよく観察した。


店を仕切る彼女は、白いシャツに黒いスキニーパンツ、その上にサロンを巻き、髪も無造作に一つにまとめただけのラフな出立ちだった。

それがまた似合っていて、どんなスタイリングも様になるのは美人の特権だな、などと思った。


彼女は時折常連客と雑談をしつつ手際よく仕事をこなしており、その明るい様子からは怪しい裏稼業の匂いは微塵も感じられなかった。

客と談笑する時は、その美貌をごく自然に生かして効果的な笑顔を見せ、時折聡明さを感じさせる一言を放ったり、ユーモアを織り交ぜたりして的確な相槌を打つ。

それが彼女の才能で意識せずともできるのか、鍛えて身につけた技なのか、直人にはわからなかった。


店はその日の都合によって早く閉めたりそもそも開けなかったりする。


レイカにとっての本業は、あくまでもう一つの方らしい。

殺しの仕事だ。


彼女は直人に、毎回必要最低限の情報だけを説明し、指示と道具を与えた。

最初はどこどこの店の外観と内装の写真や動画を撮ってこいとか、出入り口や従業員の人数を確認しろとか、そんなところだった。


調べた情報を文書にまとめたり、図面を作成することもあった。

もともと細かい作業が得意な直人には、苦ではない仕事だった。


二週間ほどすると、直人は逃亡の際の運転手の役割も与えられるようになった。

仕事を終えたレイカを指定の場所で待ち、彼女を乗せたらすぐに発車するのだ。


彼女は殺しの仕事と言っているが、実際に現場を見たことはなかった。

それに仕事終わりのレイカはいつも、涼しい顔をしていて返り血ひとつ付いていないのだ。


一体どんな風に殺しているのか、そもそも本当に人殺しなどしているのか、直人は中々信じられずにいた。


そんなある日のことだった。

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