第9話 初恋の人、留美が大事にしていた想い出のブローチ

和室箪笥から美鈴が、なにかを持って来た。

 「おじさん、これを見てください。母は父に内緒で私達姉妹にそっと見せてくれたんですよ。大事な青春の宝だと言ってね」

 それは私と留美が二人並んで得意気にVサインをしている写真と、私が留美にプレゼントした。安物のブローチだった。

 それを大事に持っていてくれたのだ。なんと健気な女性だったのだろうか。

 「母は真人おじさんのことが忘れられなかったのよ。私達が中学の時に知らされて最初は父への裏切り行為と恨んだりもしたわ。でも母は父に一生懸命に尽くしてくれたわ。想い出だけならいいでしょうと笑った母が、今になって私達姉妹も母の女心が分かるような気がするのよ。真人おじさんが来てくれて、母はきっと喜んでいてくれると思います」


 「それは大変有り難いが、あなた達に悪いような申し訳ないよう気分ですよ」

 「いいえ、母は言っていました。夫は勿論大好きよ。でも青春の想い出は夫が作ってくれないもの。私があなた達に話したのは、そんな恋をして欲しいからよと」

 それに付け加えるように美幸が言った。

 「そうなんです。私も母を見習って良い想い出を抱いて結婚できます」

 「そうですか。ありがとう御座います。良いお母さんでしたね。私もあなた達のお母さんに、初恋の人と呼ばれたことを誇りに思っています」

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