第8話  初恋の人、留美の娘達

田舎の雑貨屋でこじんまりしているが、生活用品から食品まで揃っている。ちょっと

したスーパーのようになっていた。

 「いらっしゃいませ!」

 「こんにちは、申し訳ないが客じゃないんだ。貴女はこちらの娘さん?」

 「ハイ? そうですが……」

 「私はね、貴女のお母さんと同級生だった森田真人と申します。昨日、同窓会がありまして、その時に留美さんが亡くなったと聞きまして、せめてお線香を上げさせて貰いたく尋ねて来ました」

 「え? もしかして真人おじさんですか母の初恋の人、あっ申し遅れました。私、長女の美鈴です」

 「えっ……まぁそんな時期もありました。……なんでそんな事まで知っているのですか」


 まさか娘に留美が私のことを伝えたのか。なんかバツの悪さを感じたが、招かれざる客どころか喜んで中に入れてくれた。客はそう来るわけでもなく美鈴は店を閉めて、母と父の仏壇の前に招き入れてくれた。

 「御両親が亡くなって寂しいでしょうね」

 「寂しくないと言えば嘘になりますが妹も居ますし、来年には二人とも結婚するんです。だから気にしないで下さい。妹も間もなく仕事から帰って来ますから」

 俺は仏壇に飾られた写真を見た。五十過ぎた時の写真だろうか、年のわりには若く昔の面影が残っていた。留美も今の私の姿を見たら百年の恋も、いっぺんに冷めるだろうなと思った。そして合わせる顔もないような自分を責めた。私は位牌と写真を暫く眺めてから線香をあげた。写真から読み取る表情は幸せを物語っていた。いい人生を送れた事に、私は他人ごとながらホッとした。

 そんな時、妹の美幸が帰って来た。確かに留美に似てこちらも美人だ。

 その美幸は軽く頭を下げて微笑んだが、意味が分からず姉の美鈴を振り返る。

 美鈴は妹に説明していた。私はなんか恥ずかしい気分がした。やはり美幸も聞かされていたのか、パッと表情が明るくなった。留美は私のことを子供達に、どんな風に伝えていたのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る